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きちんとは話せなかったけれど、Aさんと会って二度目の今日わかったのはAさんは天然人たらしな部分がある事だ。美人で優しく聡明で、嫌われる要素がないというのも大きいだろうが。
「それならテンジクの施設訪問とか打診し易くなるかな」
「うん。後はもっと翔平を知って貰う事だね。Aさんはスポンサーも、きっとプライベートの友人も自分の目で選んでるよ。裏も表も知ってるからこそ、メディアの情報もネットの噂も一切信用してないと思う」
家に着いてストレッチしながら、一平さんの言った事をもう一度考える。
プロに入ってから寄って来るマスコミに家族のプライバシーを晒されたり、野球選手と付き合いたい女優やアナウンサーとの合コンが先輩たちの間で設けられている事実に落胆したり、女性記者に追い回されただけで切り抜いてガセネタを流されたり、富や名誉や地位に寄って来る人間に辟易したり、一種人間不信に近い自覚はある。僕はただ野球に集中したかったから、余計なものは要らなかった。
でもどうしてAさんの事となると、考える事を厭わないのか。邪魔に思わない、寧ろもっと近付きたいと思うのか。
Aさんと信頼し合っている黒川さんに留まらず、今日はAさんと距離近過ぎじゃないか、と家族の蘭くんと竜胆くんにまでモヤモヤしてしまったのか。
観客の少年を抱くAさんは、心からの笑顔で笑っていた。きっとAさんが幼少期与えられなかった愛情を今、責任ある立場で世界中の子どもたちに与えて回っている。
まだ二回しか会っていないのに、
「好き、なのかなぁ……」
"May: お疲れ様です。今日は何から何まで本当にありがとう!初めてあんなに近くで野球を観ました。正直私はあの大きなスタジアム内に渦巻くプレッシャーの中で膝が震えて立つ事すら出来ないや〜と鳥肌が立ったよ!
そんな中一球一球どんな気持ちで投げられているんだろう、バッターボックスに立ってどんな気持ちでボールを待ち構えているんだろう、とドキドキしながら観ていたら放たれたホームランに叫んでしまいました。人並みですが、かっこ良かったです。
私も皆に不可能だと言われても、世界中の恵まれない子どもたちに対面して抱きしめてやるんだ、と決意新たにした一日でした。弟たちも何かを感じた筈です。
大谷さんへの敬意と感謝をここに。"
"竜胆: 髭のサイン貰い忘れた"
「ぷ……似てないな」
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作者名:カーター千之助 | 作成日時:2024年1月1日 0時