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「よっぽど気に入ったんだね、その彼の事」
「変な言い回しやめてくれない?」
数本の撮影を終えジムで竜胆くんと遭遇した事を一平さんに話しながらホテルに戻ると、ちょうど話中の竜胆くんが何やらドアマンに詰め寄っていた。
「だからモンブランだっつってんだろ、栗だよ栗!こんなやつ……hey Siri, モーンーブーラーン!!」
いや、笑うでしょ。何してんの。
「ぶっ……竜胆くん、どうしたの」
「あ、翔平良いところに!!近所のどこでクソ美味いモンブラン売ってっかこのゴリラに聞いて」
「Gorilla? You wanna come to watch em?(ゴリラを見に行きたいのかい)」
ゴリラだけ聞き取れたドアマンに僕はもう笑い過ぎて話せない。「お前がアスリートじゃなきゃぶん殴ってた」そういう気遣い出来るんだね、ごめん。
「一平さんお願い……って、一平さんも笑っちゃってんじゃん」
「ご、ごめん……Lemme ask you(お尋ねしますが)……」
「何で急にモンブラン?」
「兄貴のご機嫌取り。ルームサービスのは嫌だとかマジどこの王様だよ、ぜってー姉ちゃんにチクる……あ"?誰だテメーら殺すぞ」
竜胆くんがげんなりとした様子で愚痴っている最中、僕に気付いたのだろう若い男女数人がザワザワと近寄って来たが、日本語もわからないだろうに竜胆くんの凄みで蜂の巣のように散って行った。既に笑いのツボが浅くなっている僕がまたも吹き出しそうになるのを堪えているうちに、一平さんが店名と地図を書いた紙を持って来た。
「竜胆くん、僕の通訳の一平さん」
「さんきゅ、マジ助かった……兄貴とイッペー交換してくれよ」
「ぶっ……水原一平です。お店見つかって良かったですね」
「普段海外どうしてるの?」
「商談とかする時は部下連れてくって……んじゃ、行ってくるわ」
物凄いスピードで去りゆく竜胆くんにアスリートとしてのポテンシャルを感じ、今度こそ声に出してゲラゲラ笑っていたら、一平さんも竜胆くんを気に入ったのか「確かに面白い子だね」とつられていた。
「末っ子だからかもだけど、ガキ大将って感じだよね」
「翔平もね」
「……」
その数時間後、やたらカラフルなモンブランかと疑わしきケーキを睨むお兄さんの写真が送られて来て今度こそ一平さんと心中した。
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作者名:カーター千之助 | 作成日時:2024年1月1日 0時