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「あ、あれ。野球のナントカ山サン」
「大谷です」
フリーウエイトしていた僕の前にいつの間にか移動した彼は髪と同じ紫色の瞳でじー、っとこちら見ていた。俗に言うヤンキー座り、という格好で。
「それだ。やっぱガタイ良いんだなー」
「お兄さん……「竜胆」……竜胆さんはアーティストさん、とかですか?すみません、僕疎くて」
「ただのクラブ経営者。大谷サンいくつ?」
「26です」
「えっ、タメじゃん」
ぱっ、と大きな垂れ目を輝かせる竜胆さん。でも同い年の日本人にこちらで遭遇するとは思わなかった僕も同様に「えっ」と反応する。一通りトレーニングも終わったし、いっか。
「俺、大谷もっとオッサンかと思ってた」
「滅茶苦茶失礼ですね。童顔って言われるんですけど」
「はは!違ェって、何となく。タメ口で良いよ」
「"何となく"……。じゃあ僕の事も翔平で」
竜胆くんは僕の事を色眼鏡で見ないので、久しぶりに気を抜いて同級生と話したような感覚だ。その後、彼にも兄姉がいる末っ子である事やゲームが好きな事など意外な共通点が見つかり、ほんのブレイクで仲良くなった。
そして彼が異様にお兄さんと仲が良く、かなりのお姉さんっ子な一面も反面し、「ブラコンシスコンじゃん」と僕が笑ったら「ブラコンはねーわ」と不貞腐れてしまったり。
「シスコンは否定しないんだ?」
「そりゃーまぁ……翔平は好きじゃねーの」
「うちは普通だよ。仲は良いと思うけど、向こうも結婚してるし」
「うげー……姉ちゃん結婚とかマジ無理」
「えっ、そこまで?お姉さん彼氏とかいないの?」
「今知る限りは……クソほどモテっけど。昔一回良い感じの人が出来た時さ、兄貴が捨て駒使って相手の男襲ったんだよ」
「、はぁ!?え、」
「それはマジで俺も知らなかったんだって。したら姉ちゃんすぐ気付いてさ、兄貴に殴り掛かって。兄貴も応戦するしお互い骨折やら大怪我、数ヶ月口効かねーし……間に入る俺が一番苦労したね」
灰谷姉弟の喧嘩は凄まじいらしい。この時きっと僕はアホの子みたいな顔をしていただろう。
「それが最後の喧嘩だけど。十年以上前だわ懐い……って、やべ。戻んねーと兄貴に殺される。あ!翔平また会おうぜ」
そう言って連絡先を半ば強引に交換させられ「じゃあな!」と消えて行った竜胆くん。破天荒な彼(ら)との付き合いが後に深く濃いものになる事を、この時の僕は知らなかった。
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作者名:カーター千之助 | 作成日時:2024年1月1日 0時