ノット・フェア１ (ページ1)

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はじめまして、竜胆くん。ページ1

スポンサーの広告撮影で一平さんと訪れた東海岸はニューヨーク。滞在した先のホテルに併設されたジム、利用者はそれなりの身分の方しかいないだろうが、迷惑や騒ぎを避けたくてなるべく人のいない時間帯を選んで向かった。

　しかし、いざ踏み込んだそこには先客がいた。球団関係者もチームメンバーもいないのに……とんだ誤算だ。

　出直そう、と踵を返そうとした僕の背に届いた「おい」、ん？"Oi"？

「使いに来たんじゃねーの」

　まさかの日本人。

「何で戻んの。やってけよ」

　まさかの命令形。

「このスミスマシンすげー！俺も買おっかなー」

　デカい独り言。

「……じゃあ、僕もお邪魔します」

「あ、やっぱ日本人じゃん、ラッキー。俺英語マジ無理」

　そして僕に気付いていない、否、知らないのかもしれない。一人勝手に恥ずかしいパターンだ。

「僕もまだダメなんですよ、英語」

「……よ、っと！」

　渡米して数年。タトゥーは見慣れたが、彼のそれは中々にいかつい。そしてお団子に結われた髪は紫。ド派手だ。

　アーティストさんか何かかな。それにしても、アスリートの僕から見ても凄く良い筋肉。

　話しかけておいてスルーする自由な彼は無邪気に器具を設定している。僕も集中しよう。

　先に彼が言った通り、流石一流ホテルといった設備で、小一時間きっちりメニューをこなした。