鬼の正体 ページ38
京極屋は全体的に暗い雰囲気に包まれていた。
活気がなく、不安げに空気が揺れている。
素知らぬ顔で廊下を堂々と歩くと、意外と殆ど気付かれない。
時々、誰？っという顔で振り返られるが、声をかけられる前に去ってしまえばなんてことは無かった。
(善逸はどこ？消えたのはつい昨日の夜のはず……)
どの部屋もくまなく見て回るが、全く気配が無い。
危険だが、人に聞くしか情報は得られないと思った矢先、廊下の隅で泣いている少女二人が目に入った。
(あの子達、何か知っている)
直感でそう思った。
急くように近寄っていくと、一人が不安げな眼差しを向けた。
「ねえ、善子っていう、頭が黄色い子、知らない？」
「……あなたは？」
「善子は私の、大事な友達なの」
答えとは微妙にズレた返答で誤魔化すと、彼女達は迷ったように視線を合わせてから、おずおず口を開いた。
「……だけど、もうその話はするなって……」
やはり、と口が緩む。
安心させようと、そっと肩に手を置いて微笑み掛けた。
「ここだけの話よ。私が必ず善子を見つけるから、何があったのか教えてくれる？」
二人はもう一度顔を合わせると、込み上げた不安を涙にしながら、昨夜の出来事を教えてくれた。
「私、助けてもらったのに、何も出来なくて……。布団に寝かせてる間に居なくなっちゃったの」
「旦那さんは足抜けだっていうけど、きっと……」
少女は躊躇したように口を噤んだ。
みんな、漠然と怪しいと思っている者が居るのだろう。だが、その名を口にするのを恐れている。
私は真剣な眼差しで彼女に約束する。
「大丈夫。絶対に誰にも言わないから、言って」
耳を傾けると、少し迷ってから少女はこそっと耳打ちした。
「そう……。その花魁の部屋は？」
癇に障るような事をしたら危ないと、教えるのを拒んでいたが、迷惑はかけないからと、しつこく問い質すと渋々教えてくれた。
北側の日の当たらない部屋。
善逸を失神させる程の威力で殴れる女など一般人とは思えない。
これで確信した。
鬼は、蕨姫という花魁だ。
(善逸を何処に隠したのか、直接聞く！)
轟々と燃え盛る炎を胸に、我流の呼吸で心を燃やす。
「許さない……」
蕨姫の部屋の前で立ち止まる。
後ろの部屋の戸板が脆くなっているのが目に入った。
(善逸はあの戸板ごと飛ばされたんだ。あの子を庇って……)
善逸らしい。
怖いくせに、人の為に立ち向かっていく。
それが私の愛する人の姿。
私は、戸を蹴破った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 459人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
maicoo(プロフ) - ゆんゆんさん» だいぶ前にコメント頂いていたのに、返信が遅くなり申し訳ありません！優しいお言葉、ありがとうございます。かなり間が空いてしまいましたが続きを書いたので、まだご興味がありましたら読んで頂けると幸いです。 (2020年10月9日 13時) (
レス) id: e4977cc5c7 (このIDを非表示/違反報告)
ゆんゆん(プロフ) - 更新頑張ってください！待ってます！ (2020年5月15日 15時) (レス) id: 91470d6548 (このIDを非表示/違反報告)
凛(プロフ) - プロ目指しているならちゃんと完結してほしかったです。 (2020年5月12日 3時) (レス) id: f03e58bde9 (このIDを非表示/違反報告)
maicoo(プロフ) - もっさん» コメントありがとうございます！実はプロを目指していて、普段はオリジナルを書いています。夢小説は文章と表現力の練習にもなるし息抜きがてらにやっているので、ペースはまちまちですが……。色々と悩む事があったので、凄く励まされました！これからも頑張ります！ (2019年10月7日 9時) (レス) id: e4977cc5c7 (このIDを非表示/違反報告)
もっ - このシリーズ、なんだかプロの小説家さんが描いているようで凄く面白いです…！更新頑張って下さい！！ (2019年10月6日 14時) (レス) id: c9f0456c30 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：maicoo | 作成日時：2019年9月25日 22時
