飛び立つ時 ページ18
窓の外の明かりを確認する。
日も沈んで、そろそろ裏山へ行こうかと部屋を出ると、誰かに手を掴まれて再び部屋の中へ引きずり込まれた。
扉の閉まる音がして、ようやくそれが善逸であるとわかった。
「……ぜ、善逸？」
「やっと掴まえた」
どういうことだろう、と思ったが、それよりも本の礼を言おうと口を開きかけたのを善逸が遮った。
「いつも居ないからさ、苦労したんだよ」
「あ、そうだったんだ……ごめん、ちょっと忙しくて……。あの ───」
「今日も行くの？裏山」
今度こそ言おうとするが、それが叶う事はなく、今度は善逸の言葉に驚いて、言いたいことの優先順位が入れ替わった。
「………知ってたの？」
「うん」
「じゃあ……、止めに来たの？」
善逸は少し視線を落として、
「そうだよ」と頷いた。
私は肩を落とす。
どんなに頑張っても、認めてはもらえない。
「行かせて……お願い……」
「なら、俺を退かせばいいよ」
そう言って、善逸は扉の前に立ち塞がった。
見上げると視線が交わった。
私は彼の意図を探るが、善逸は無表情で感情が読み取りにくい。
纏う空気も至って落ち着いていて、よくわからない。
「俺を突き放して行けばいい」
「善逸……」
私は俯いて戸惑う。
(そんなこと………)
考えるだけでも辛くなった。
どうして善逸は、そうまでして止めたいのだろう。悲しいのと悔しいので息が苦しくなる。
悩んで、ぐっと拳を握った。
「善逸、本を……ありがとう。私の、宝物を拾ってくれて……優しくしてくれてありがとう」
善逸の襟元を掴むと、足をかけて横に倒した。
簡単に傾いた体は、背中から床に倒れる。
ほんの一瞬の出来事。
その上に私は四つん這いで乗っかって、善逸を見下ろしている。
善逸は無抵抗だった。
それで本当は止めに来たのではないのだと気が付いた。
多分、最後の訴えだったのだろう。
この安全な場所に居てくれ、と。
「ごめんね、ごめんね善逸。沢山優しくしてくれて、心配もしてくれて……。でも、もう後戻り出来ない。前に進まなきゃ……ここよりもずっと先にあるの」
善逸の頬に数滴、滴が落ちた。
私が落としたものだ。
善逸の眉尻が下がる。私の好きな表情。
「私ね、善逸が思ってる程いい子じゃないよ。本当は……すごく、悪い女なの」
そう言うと、善逸は「だと思ってた」と言って淋しげに笑った。
私は飛び立つことを選んだのだ。
この関係も今、ゼロになった。
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maicoo(プロフ) - ゆんゆんさん» だいぶ前にコメント頂いていたのに、返信が遅くなり申し訳ありません！優しいお言葉、ありがとうございます。かなり間が空いてしまいましたが続きを書いたので、まだご興味がありましたら読んで頂けると幸いです。 (2020年10月9日 13時) (
レス) id: e4977cc5c7 (このIDを非表示/違反報告)
ゆんゆん(プロフ) - 更新頑張ってください！待ってます！ (2020年5月15日 15時) (レス) id: 91470d6548 (このIDを非表示/違反報告)
凛(プロフ) - プロ目指しているならちゃんと完結してほしかったです。 (2020年5月12日 3時) (レス) id: f03e58bde9 (このIDを非表示/違反報告)
maicoo(プロフ) - もっさん» コメントありがとうございます！実はプロを目指していて、普段はオリジナルを書いています。夢小説は文章と表現力の練習にもなるし息抜きがてらにやっているので、ペースはまちまちですが……。色々と悩む事があったので、凄く励まされました！これからも頑張ります！ (2019年10月7日 9時) (レス) id: e4977cc5c7 (このIDを非表示/違反報告)
もっ - このシリーズ、なんだかプロの小説家さんが描いているようで凄く面白いです…！更新頑張って下さい！！ (2019年10月6日 14時) (レス) id: c9f0456c30 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：maicoo | 作成日時：2019年9月25日 22時
