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寮・食堂にもいなかった。
屋内練習場にも。
「もう……どこにいるの?」
今日伝えないといけない。
だって今は倉持の“大丈夫”の言葉から貰った勇気があるから。
明日になると、きっとこの勇気は薄らいでしまう。
「だから、今ある内に伝えたいのに……」
「伝えるって?誰に?」
「それは御幸くんに………ってうわぁ!?御幸くん!?」
探していた人がいきなり現れて驚いてる私をよそに、当の本人の御幸くんはようっとニッと笑って片手を上げていた。
あ、御幸くん部屋着だ。
「伝えたいことって?何?」
「え……あ、えっと…」
バクバクと心臓が速くなって、言葉につまる。
緊張しすぎてか、息がうまくできない。
「A?」
何も言わない私を見て、不思議そうに名前を呼んだ。
早く、早く伝えなきゃ。
言え!私!
ぎゅっと目を瞑り口を開きかけた瞬間───
「……え?御幸、くん?」
突然彼が私の頭に手を置き、優しい手つきで撫でてきた。
突然の事で驚いて何度も目をパチパチとさせてると、彼は優しく笑いかけた。
「俺に何を伝えたいのかは分かんねえけど、大丈夫だ。ちゃんと最後まで聞くよ」
あぁ、そうだ。
こういうところだ。
こういう優しい所に一番惹かれたんだ。
いつも後輩や同級生をからかって、先輩にはずけずけと遠慮なく物事言って。
でもそれは“チームのため”で、言っている事も的を得ていて。
本当は仲間思いで、優しい人。
それに気づいたのが、ちょうど今から1年前。
クリス先輩が怪我で第一線から離れるのを余儀なくされてから2週間経った時だった。
たまたま見てしまった。
誰もいないところで独り泣いてる御幸くんを。
なぜか放っておくことが出来なくて、でも何を言ったらいいのかも分からなくて、ただ黙って隣に座った。
ただ黙って隣に座り続けた。
そのうち御幸くんはぽつりぽつりと話してくれた。
『ちゃんとあの人と正捕手争いがしたかった』
『なんであの人が怪我をしていること、見抜けなかったッ』
『あんなに近くにいたのに…!』
その言葉達を聞いて、あぁこの人は本当は凄く優しい人なんだと気がついた。
近くにいたからってだけで、責任を感じるほどにこの人は優しいんだって。
そのことに気がついた瞬間、私は御幸くんを好きになっていた。
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作者名:泉原 瑠守 x他10人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Rumahappin2/
作成日時:2016年7月8日 19時