いっそのこと夢であれ【knmc】 (ページ3)

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文句を言いながらベッドから起き上がる。
ちょっと感覚が寝ぼけている体を軽く叩いて、階段を降りながら制服のブラウスを羽織った。

適当な菓子パンを食べながらブラウスに袖を通し、シワ一つないプリーツスカートの金具を留める。昨日ちゃんとアイロンを掛けたんだ。優等生の証だ。優等生はこんな大寝坊なかなかしないと思うけど！！

スカートのパン屑をはらう。たぶん帰ってきたらお母さんに怒られるなー！今はそんなこと気にしてられないけど！

いつもは30分かけてやる準備も今日は八倍のスピードでやらなきゃいけない。
食べたらすぐに歯みがきだ、正直まだカスタードの味が残っているがもうこの際気にしていられない。セーターを被れミントで目を覚ませそして一直線に走れ！！

「いってきます！！」

アスファルトの上を一直線に駆けていく。第一ボタンも閉めないままに！人と人を掻き分けて、青信号になった横断歩道に誰よりも早く踏み出した。

リボンなんてたぶん曲がり放題。前髪はセットしてないのにきっとオールバック。なんだって身だしなみに気を配る時間がこっちにはもう残されていないんだ！！

鞄の横で荒ぶる定期を捕まえて、地下鉄への階段を駆け降りた時の勢いを殺さないようにしながら、入り口の改札機にかざした。

ぴ、と小気味良い電子音を背にして、天井の電光掲示板を見る。

剣持の指定した電車の到着予定時刻までは、

「あと3分！！」

普段は寄り道しながらゆっくり行く駅構内を、今日はひたすらに走る。あいにくそんな余裕はない。

服屋のガラスケースには目もくれない。試食のお姉さんとは目も合わせない。ただただ3番線のホームが私の目標地点！

エスカレーターを駆け降りる。
走って階段を降りるより断然早い。だって地面そのものが動いてる。寧ろ風を切るようで少し涼しくて心地いい。
ちょっと遅めの時間でよかった。エスカレーターに人は乗っていない。いつものラッシュは少し前に過ぎたらしかった。

「おはよう剣持！！」

声をかけられて振り向いた彼は、朝にあの迫力と声量で、しかも電話越しで私を起こした存在とは思えないくらい、ひどく憂鬱そうな表情で私を出迎えた。

息も切れ切れ、制服はヨレヨレ、いかにも急いで来ました、な雰囲気丸出しの私を見た瞬間。普段は大きく開かれているその萌黄色の双眸を、ひどく不機嫌そうにぎゅ、と細める。

「遅い。」
「ほんとごめん剣持！」

剣持はこちらにも聞こえるくらいの大きなため息をつくと、さっきまでいじっていたスマホの電源を切って、制服のポケットにしまった。