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『起きろ怠け者！！』
冗談じゃなく一瞬本当に息が止まった。
目覚まし時計だけじゃなく突然の怒鳴り声も不快だ。朝のこのタイミングでは特に。
「な、なに？？」
寝起きの回らない頭で、思い当たる節を探しだそうとしてみる。リコレクト。人に起こされることなんて滅多にないし、お母さんとお父さんは今朝は仲良く一緒に早番なので、もう家にはいないはずだ。
まず怒鳴り声の主はどこにいるんだろう。
まだ薄暗い自室を軽く見回してみる。
当然ながら人の姿はない。我が家のセキュリティはそんなに甘くない。
お母さんは一人娘のことを思ってしっかり鍵をかけてくれている、はず。
ふとベッドの上のスマホに目をやる。
目覚まし時計を解除してから暫く経つはずなのに、画面はまだ光っていた。
あれ、スヌーズにしてたっけ、自棄になって操作間違っちゃったかな。
そんな呑気なことを考えていた頭が、次の瞬間一気に覚醒することになる。
さっき愛でたはずの液晶に、友人である剣持刀也との通話画面が、表示されていたのだ。
「え剣持！？？」
声の主の謎が解けた。それと同時に、布団の中で温まっていた体から、さっと血の気が引いていく。
寝ているところをずっと通話でお届けしていた？寝言とか寝息とかもしかして全部？
……いやでも、だって、まずそれ以前に私は応答した覚えがない、彼との通話に。
『そうだよおはよう！！』
でもしっかり挨拶をしてくれるのは良い。さすが運動部だ、優等生だ、清々しい朝をそのまんま体現したような存在だ。
だから怒鳴り声もあんな目覚まし向きなのか。剣道部って恐ろしい。
でも耳元で聞かせるのはちょっとないぜ剣持刀也。全部の内臓が口からまろびでるところだった。目覚める以前に目覚めなくなるところだった、永遠に。いやほんと、冗談じゃなく。
『今から十四分後の電車に間に合わないようだったら、僕はお前を置いて一人で学校に行く。』
「…え？？」
『朝飯は食えよ。あと今日漢字テストだからな。』
ぶつ、と音がして、反論の余地もないまま通話が切れた。
静寂が戻った部屋の中で、まだ衝撃が尾を引いている。知らない間に勝手に始まっていた通話。いつから繋がっていたか分からない通話。こんな経験たぶんもう二度とない。
スマホが静かなのが逆に違和感だった。さっきまであんなに騒がしかったのに。
大きく息を吸って、ばくばくする心臓を落ち着かせて、冷静になろうとしてみる。
…いや駅まではどう走っても十分はかかるんだよ剣持刀也！！
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作者名：をかだ | 作成日時：2023年5月21日 14時
