【アイナナ】パーフェクト彼氏の言う通り【和泉一織】

第6講 ページ6

｢ありがとう…｣





遠慮がちに重ねた手は一織くんの大きな手によってすぐにぎゅっと握られ、胸がさらにときめく。



黒色の大型車に乗り込んでドアを閉めると、一織くんはすぐにエンジンをかけた。




｢Aさん、きちんとシートベルトを締めてくださいよ。｣


｢…うん！よいしょ…できた。締めました…！｣



ドレスが結構広がりがあるものなので、締めづらくて多少手こずってしまった。



すると一織くんは確認するように目線をこちらにやる。




｢…そこ、レースがシートベルトに引っかかっています。｣


｢え？どこ？｣




うわぁ出発直前なのに申し訳ない、全然どこかわかんない…







私がきょろきょろしていると、一織くんが突然私の前に身を乗り出して私の左の方の鎖骨に手を伸ばした。



｢…えぁっ……｣







ち…近い…！


一織くんの髪の毛が首元をくすぐって、なんか、なんか…変な気持ちになる。









｢動かないで。じっとしていてください。｣







私の視界の範囲外で、一織くんに触れられている。



レースの引っかかりを取ってもらっているだけなのに…どきどきしすぎて、もう耳まで熱い。心拍数が、一気に上がる。





私…慣れなさすぎなのかな…







｢…取れました。出発しますよ。｣



｢…っ…うん…！お願い、します！｣





まだ全く心臓がおさまっていないのに、車は静かに音を立てて動き出す。



会場が、ホテルが遠ざかってゆく。




誰にも言わずに抜け出すなんて、こんな秘密みたいなこと…初めてだ。









目的地はあえては聞かない。一織くんと一緒なら、どこだっていい。









＿＿＿＿今日も…一織くんが私を新しい世界へと連れ出してくれる。







････････････････････････





｢えっ！？一織くん、あの撮影のときそんなこと裏でしてたの？｣


｢四葉さんが直前に笑わせてきたんです。くだらない冗談だったのに…何度も何度も言ってくるので笑わないように手をずっとつねっていました。｣




車の中で、一織くんと2ヶ月ぶりにたわいない会話をする。





一織くんの私の作り出す雰囲気は落ち着いていて、ずっとお互いに会話をしているわけではない。




だけど…誰の隣よりも落ち着く。ずっと隣にいたいって、そう思えるような空間。






｢Aさん、もうすぐ着きますよ。あの角を曲がる時に前方左を見ていてください。｣







…！



あれって…







｢海だ…！｣

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