第26講 ページ27
「ちょっと待って。」
…ん?天さん。私たちに言ってる…のかな?
だけどそれにも構わず足を止めた私を早く行けと言わんばかりに押す一織くんは止まらない。
「…キミたちに言ってるんだよ。和泉一織。」
「…なんですか。」
視線と視線がぶつかり合う所で火花がばちりと弾ける音がする。
そしてそこが燻って開戦の狼煙が上がったような…そんなただならぬ雰囲気だ。
「その子。『清掃員』さんだっけ?ちょっと貸してくれない?」
眉をくいっとあげて一枚上手の笑みを浮かべる天さん。
本当に全て知っているかのような余裕…だ。私がただの「清掃員」じゃないこと。バレているかのようで背中に一筋、冷たい汗が流れた。
「…なぜですか。」
険しい表情に、わずかな怒気を含んだ声色。この申し出を断ろうにも、私がただの「清掃員」だったらそんな権限は一織くんにだってない。
そんな一織くんを見て、天さんは肩で少し笑った。
「なんで、キミが怒るの。ボクはそこの彼女と少し話がしたいだけ。それとも何。……彼女とボクが2人きりで話して、キミに何か不都合でもあるの?」
ギリ、と小さく一織くんの歯ぎしりの音がした。
だけどその表情は崩れていない。なんとか、なんとか悟られることのないように耐えているようにも見える。
「あの…私行きます。」
おそらく私が現場関係者のみ立ち入り可の場所に迷い込んでしまったことは事実で、一織くんは天さんと陸さんに囲まれて身動きが取れなくなった私を助けるために割って入って来てくれたんだろう。
ただ、今天さんに呼ばれて断る理由はない…というか断る権限がないのだ。
____心配かけてごめんね。
そう心の中で唱えながら一織くんのもとを離れる。
「…っ」
一織くんは一瞬顔を歪ませたがすぐに平然を装った。
「…わかりました。では清掃員さん、出口はこちらの通路をずっと行った所にあるL2階段から1階降りた場所にありますから。」
「は、い…。」
そう言って私に背を向けて歩き出した一織くんの背中を見て、少しだけ胸が痛む。
なかなか…2人では会えないよね。助けようとしてくれてありがとう。今度ちゃんとお礼を言わなきゃ。
「清掃員さん。」
透き通った、それでいて耳に残るような艶っぽさを含んだ声が私を呼んだ。
「はい…!な、なんですか?話って…」
思わず勢いよく振り返る。
「キミ…前にNYで練習生をしていなかった?」
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アイリス(プロフ) - 毎話コメントはしていないのですが通知が来る飛んでいくんですよ😂時間があれば読み返したりして何度も楽しませてもらっています!こちらこそいつも素敵な物語をありがとうございます🙇 (2022年3月6日 22時) (レス) @page32 id: 01923abc00 (このIDを非表示/違反報告)
なたね(プロフ) - アイリスさん» アイリスさん!😳ご無沙汰しております😢そうですね、2人の心と天くんの心に注目して見守って頂ければと…😌今日の夜また更新予定なのでぜひまたよければ覗きに来てくださいね☺️いつも本当にありがとうございます!<(_ _*)> (2022年3月3日 11時) (レス) id: 1ba5a28d82 (このIDを非表示/違反報告)
アイリス(プロフ) - こんにちは!これからどうなるんだろう…!とドキドキしました😳だけど2人の心が離れることはないと思うので、嫉妬かわいい〜と楽観的に読ませて頂きます😂 (2022年3月2日 22時) (レス) @page29 id: 01923abc00 (このIDを非表示/違反報告)
なたね(プロフ) - monaさん» 更新するする詐欺になってしまっているのですが🥲2月半ば以降は繁忙期から解放されるのでガンガン更新していきます🙇♀️それまで宜しければお待ちください☺️コメが届いたので飛んできましたが、嬉しいお言葉有難うございました…!! (2022年1月28日 3時) (レス) id: 1ba5a28d82 (このIDを非表示/違反報告)
なたね(プロフ) - monaさん» monaさんコメントありがとうございます!なんて嬉しいお言葉でしょう🥲一織の口調や行動はかなり気をつけているので、そう言って頂き安心致しました…!アイナナ愛、感じてください…!☺️最近全然覗けてなくて(続きます💦) (2022年1月28日 3時) (レス) id: 1ba5a28d82 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:なたね | 作成日時:2021年4月29日 0時