夜更け捌き人形 (ページ30)

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咖哩を食べる織田と同じ返し方をしてみたけれど、桃華は言い慣れていないせいの違和感に恥ずかしくなる。

結局言い直したのは、照れて笑ってしまったからだ。

「美味しいです」

「太宰はひいひい言いながら食べるんだが、そこまで辛くは無いだろう？」

完食してもう一杯食べ始めた織田に聞かれ、丁度スプーンを口に入れたところだった桃華は、また恥ずかしくなり、肩をすくめて頷いた。

食べながら二人で話し、桃華は織田の夢も聞いた。

「素敵ですね、凄い楽しみです」

君の夢は死ぬ事か、と聞かれ、桃華は歪んだ口元を見られないように押さえた。

「え、何でそれを…、いや、もう一つ有ります」

桃華が夢を話したら、「そちらの方がずっと良いな」と言った織田。

「御馳走様でした。機会があれば私がご馳走します」

「嗚呼、楽しみにしている。そういえば、君の名前を聞いていなかった」

「泉桃華です」

「桃華、また一緒に咖哩を食べよう」

「これからも」「また」と、マフィアに来てから、自分に未来を求めてくれる人に出会い、桃華は幸せだった。

※

三日前、エリス孃と見ていたテレビに桃華は釘付けになった。

会ったことも無い、名前も知らない人に。

ただ分かったのは、その人がピアニストだという事。

真っ黒での見た目で、蓋を開けると細長い白と黒が並んでいる物体をピアノということも、エリス孃に聞くまで知らなかった。

マフィアの私なのに、あんな風にピアノを弾けるようになりたいと桃華は思ってしまった。

一度抱いた夢は簡単には諦められない。

首領さんに貰ったお給料を鞄に入れ、桃華は楽譜店に入った。

小さな店に高齢の御爺さんが一人。

お客さんらしき人も私だけで、この店には二人だ。

「いらっしゃいませ、何をお探しかな？」

立ち上がった店員に尋ねられたけれど、桃華は分からないから正直に話すしか無い。

「ピアノは初めてで、良く分かりません」

「では、これをお勧めするよ。お金は足りるかな？」

店員が勧めたのは一冊の本に数枚の紙の楽譜。桃華が楽譜も読めないことを伝えると、教えてくれるとのことだ。

「ちっとも客が来なくてもう畳んで仕舞おうかと思っていたんだが、君が来てくれて良かったよ。この店は存続させよう」

桃華は暇を見つけては練習し、練習曲の３番まで進めることが出来た。

ただ、桃華の目的はそれでは無いのだ。

「おや、お嬢さん、バイエルですね？それは二番でしたっけ」