夜更け捌き人形 (ページ2)

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「鏡花とは元同じ組織だった。それだけだ」

何故子供が空から降ってきた。今僕は、それだけが不思議だ。敵の襲撃から逃げる手段か、空を飛べる異能か。可能性はいくらでもある。

その「いくらでも」の中から僕を満足させる答えが出るかは別として、の話だが。

「お前は何故降ってきた？異能か？」

「いくらでも」の中から更に選択肢を絞り込み尋ねた。子供とは言えこの年で転落事故を起こすのは考えにくい、という調子で。

包帯が巻いてある子供の首。また頭の中で浮き上がるバラバラの言葉。

怪我－、包帯－、太宰さん－、太宰さん－、太宰さん－？自@殺－。

「真逆とは思うが、意図的に飛び降りた、とでも言うのか？」

図星だ。目を伏せて頷く子供。

誰がどこで死のうが僕には一番関係のないこと。彼奴との約束が無ければそう思っていただろう。

今見捨てれば子供は、間接的にでも僕が殺したことになる。希望のない、それどころか、生きることにすら興味が無く、希望を求めようともしない目。

「生きる理由を与えてやる。嘗ての鏡花のように」

哀れな人間味の無い男が目の前に要る。その男は、生きたがっているというのに。

少し触ると直ぐに死ぬ奴らに、獣に殺される子供達に、呆気なく捨てられる脆い自分自身に、そして咳が出るたび人間に憎しみを感じる。

僕も含め何故こんなにも人間は弱いのか。

「お前の価値を見出してやる」

首を振る子供。

「お前が無価値かは僕が決めることだ。勝手に決めるな」

答えの無い問いに腹を立てた勢いで、自分を無価値だと言う子供を責めた。

弱者に自己評価する資格など有るはずが無い。矢張り人間は愚かなのだ、と再び実感した。

「あ、あのぉ、先輩、言い過ぎでは…？」

僕の言葉に意見を述べられる程、此奴は偉く無い。どの様に考えたら勝手に話に割り込むという愚かな考えになるのだ。

「黙っていろ」

「理不尽ですう」

頬を叩けば樋口は力無く呟き、大して赤くもなっていない頬を抑えた。

「お前が生きれば僕は人虎を殺せる。それだけだ」

「あのぉ、それだけすぎて意味が分からないのですが…？」

「覚悟しろ、人虎」

また無駄口を叩く樋口を今度はほおっておき、自分の口元が笑みを浮かべている状況を一人楽しんでいた。

奇妙な楽しさに少し揺れている心。子供はそれを悟ったのか、小鳥のような高い声を発した。

「あの、それ、ですか？生きる理由」