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第1話 待ちわびる夜更けに緋色の人型 ページ1

「お疲れのご様子ですが、私がおぶりましょうか?見て下さい。あそこに素敵なカフェが有ります。そこで休憩しましょう。勿論、私と一緒に」

任務帰り後輩が五月蝿い。疲れているように見えるのなら黙っていて欲しいと思うが、言わない僕にも非はあるのだろうか。

「休憩など不要」

「素敵な花屋です。先輩の為、私が花束を買ってきます」

「いちいち立ち止まるな」

置いていくつもりで歩く速度を速めるが此奴は、ちょこちょこと付いて来て僕を追い越したと思えば目の前で立ち止まる。

要するに、邪魔でしかないのだ。

「先輩っ…!」

急に悲鳴のように叫び出す樋口。無視してもよかったのだが、あまりにも五月蝿いので仕方なく後ろを振り返った。

しかし、こんなテンションで見る光景では無かった。樋口の頭上に人影が迫っていたのだ。ビルから誤って転落したらしき子供。

困惑しつつも子供の手足を異能で縛り、樋口との衝突を防ぐ。五月蝿い後輩でも見殺しには出来ず、とっさに取った行動だった。

「すみません、私の不注意でした。ありがとうございますっ」

樋口は勢いよく頭を下げた。整ったお団子に入りきっていない顔周りの毛も、その動きに合わせて動いた。樋口の横顔の鼻先に垂れる元気のない髪の毛。

「怪我は?」

「はえっ?私はありませんがっ?」

ため息をつき尋ねると、樋口は怒られることを身構えていた余り、普段の低い声とは程遠い妙な声を発した。必死だった僕は子供の四肢を強く締め付けすぎていたようで、縛り付けた子供は軽い怪我をしている。

樋口が先ほど「私は」と言った理由、か。

「おい、お前」

「人に会ったら名乗りたまえ」昔、太宰さんに頬を叩かれた記憶が蘇った。

「僕は芥川、芥川龍之介だ。この小娘は樋口一葉。お前の名を教えろ」

「初めまして、樋口と申します」

逆さにぶら下がったたまま、何の違和感もなく子供は口を開く。

「泉」

「それがお前の名か」

「泉桃華、です」

泉鏡花−、肉親−、異能−。

バラバラの言葉が頭の中で繋がった。待て芥川、それが手前の悪い癖だ。中也さんの言葉を繰り返すが冷静にはなれない訳で。

「泉鏡花っ!?人を殺せるか!僕の役に立てるか!」

『阿呆か手前はぁっ!初対面の奴にそんなに詰め寄る奴が居るか!?』

中也さんが一緒に居たら確実に怒鳴られていただろう。桃華と名乗った子供は、震えた唇から冷たい息を吐いた。

「鏡花…?」

. →


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作者名:とおゆち x他1人 | 作成日時:2023年4月22日 22時

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