第二十三章『愛別離苦』【3】 ページ18
「脱獄者は私と第一補佐で処理する。ほかの者は避難を優先してくれ」
ストールを靡かせながら入室してきた塔間がすぐさま狼狽えていた職員達に対してそう指示を出した上で「さあ行って」と掛け声をかけると。職員達は『お願いします』と塔間に頭を下げた後に、わらわらと出ていったものの。第三補佐である露木の行方をまったく気にしていない塔間の様子に、イズナだけは違和感を覚えていた。
しかし、それを口にすることはできないまま、最後に残っていたイズナもその場から立ち去ると。
一人きりとなった処で、モニターの前にあった事務用の椅子に背を凭れさせつつ、脚を組んで座った塔間はジャケットの内ポケットから煙草を取り出すと、徐に口に銜えて。
「さあ、やろうか」
カチッとライターで火を点した後に。ふ―――――〜と紫煙を吐き出しながらニヤリと口端を吊り上げつつ、目にしたモニター画面にはf5通路に到着した吊戯の姿が映っていて。
『副支部長、第一補佐。狼谷吊戯。殲滅に入る。一匹たりともそれより上には出すな』
マイクをONにした塔間が吊戯に向かってそう指示を出した処で。
「吊戯さん!!」
イズナの協力を得て、最短ルートで吊戯の元に辿り着いた真昼が、背後から吊戯に向かって声を上げたのだ。
「・・・・・・真昼くん」
塔間の言葉によって、トランス状態に入りかけていた吊戯は、ふと意識に響いた真昼の声に、呆然とした面持ちでゆっくりと後ろを振り返る。
「一人で行かないでください。これ以上戦えばあなたが壊れる。吸血鬼を止めるのなら俺達が協力します」
全力で走ってきた為に、僅かに上がってしまった息を真昼は吐き出しながら、吊戯を見据えてそう言い切るのと同時にチラリと周囲に視線を滑らせる。
―――――瑠璃姉は吊戯さんとは一緒じゃなくて、ここにはまだ来ていないみたいだ。
―――――それならまずは俺とクロで吊戯さんを戦わせないように動かないとダメだ!
そして瑠璃の姿がないことを確認した真昼は心中でそんなふうに思いを巡らせるも、しかし、塔間がそれに気付かない訳もなく。
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作者名:朱臣繭子 | 作成日時:2021年11月13日 19時