第二十一章『千錯万綜』【1】 ページ29
「や〜〜〜遅くなってごめんよ〜」
そこにぱたぱたという軽快な足音を響かせながら、自室から忘れ物を取ってきた吊戯が姿を見せて。
―――――まずはこの人・・・狼谷吊戯さん。
―――――この人が俺とクロのことを信用してくれたら。
―――――きっと椿を止める手がかりを得られる・・・。
真剣な面持ちで真昼が吊戯を見遣ると、吊戯は不思議そうに真昼を見返した後に。
「良かった、瑠璃ちゃん。ちゃんと大人しく二人と一緒にいてくれたんだね」
吊戯は笑みを浮かべながら瑠璃にそう声を掛けてきて。
―――――吊戯さん、瑠璃姉に対しては微妙に接し方が違うんだよな・・・・・・。
―――――・・・・・・御国さんもだけど。だからなのか?
そんな吊戯の様子に真昼が眉を顰めると。その場で立ち上がった瑠璃が吊戯に対し、
「あの、吊戯さん。クロと真昼君のこと、動けるようにしてあげて貰えませんか?」
「うん? そうだね。二人とも、お待たせだったね〜〜〜今、動けるようにするよ」
すると吊戯は、すんなりと頷いた後に、パチンと右手の親指と人差し指を鳴らすと。魔法自体は解かないけどね―――――と言いながら、クロと真昼の拘束を解除したのだ。
「おー・・・?」
「あっ・・・いいんですか」
瑠璃が口添えしてくれたとはいえ、あまりにもあっさりと解放されたことに対し、クロと真昼が戸惑いの色を浮かべるも。
「ああ、うん」
吊戯は平然たる様子のままで応じてきて。その後に、ようやく動けるようになったと立ち上がったクロに対し、
「さっきはありがとね。ごめんよ」
礼と謝罪―――――この二つをきちんと、軽くではあるが会釈をしながら口にしたのだ。
吸血鬼であるクロに対して、人と対するのと変わらぬ接し方をしてきた吊戯を真昼は呆然と見つめる。
と―――――
「あ―――――いたいた。吊戯―――――、無事か―――――」
修から連絡あったぞ―――――とオフィスから社宅フロアまで、吊戯を探しに弓景と共にやってきた盾一郎が呼び掛けてきて。
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作者名:朱臣繭子 | 作成日時:2021年4月25日 2時