第二十一章『千錯万綜』【2】 ページ35
―――――早く大人になりたかった
―――――誰かを守れるような
―――――誰かに手を差し伸べられるような大人に―――――・・・。
幼い頃、母親を亡くし独りになってしまった真昼に唯一手を差し伸べた大人が叔父である徹だった。
それから真昼は叔父である徹のような大人になることを目標として成長を遂げてきた。
けれど―――――
「吊戯!! 先月の報告書をさっさと出せ!!」
「ああっ、ごめんなさい!!」
「みつけたぞ、吊戯!!」
「ごめんなさい」
「お前また健康診断すっぽかしやがったな!?」
「申し訳ございません」
「吊戯さん、この書類再提出です」
「無理です、ごめんなさい」
次から次へと、入れ替わり立ち代わりやって来た相手に対し、吊戯はひたすら頭を下げて謝罪を繰り返すばかりで。
「報告書を全部ひらがなで書くな!! 小学生の作文か!!」
「ごめんなさい、オレのかわりに直して出しといてください!! 靴でもなんでも舐めますので!!」
仁王立ちでやって来た相手に対して、遂には勢いよく土下座をしながらそんな台詞まで口にする始末で。
―――――俺の憧れてた大人とは大分違うな・・・。
すっかり落胆した面持ちで真昼が吊戯を見ていると。
「・・・・・・真昼君。この制服、私達にはちょっと大きめだったわね」
制服の袖丈を折り曲げて、調整を終えた瑠璃が微苦笑を浮かべながら声を掛けてきて。
「あ、うん。そうだな、針と糸を借りられれば、俺のも瑠璃姉のもサイズ調整が出来るんだけど」
―――――戦闘班って言っても戦ってばかりじゃないんだな。
瑠璃に答えた真昼はチラリとまた吊戯のほうに目を向ける。
「減給だけは!! どうかそれだけは!! 芸でも何でもしますので!!」
吊戯は、必死の形相で、目に涙を浮かべながら相手の足に縋りつきつつ、わんわん!! と犬の鳴きまねをしていて。
そんな吊戯の様子に相手はドン引きした様子を見せながら「芸はいいから仕事しろ」と言い放つと。お金ください!! と言った吊戯を振り解いて、立ち去っていってしまい。
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作者名:朱臣繭子 | 作成日時:2021年4月25日 2時