第十七章『臆病者の唯一無二の想い』【1】 ページ41
「ッ・・・」
ロウレスは奥歯をギリと噛みしめながら、すんでのところでそのリヒトの蹴りをレイピアで食い止めると。先程の二の舞に為らないようにするべく、右手を大きく振り動かして、リヒトの脚をそのまま弾き飛ばし。バランスを崩したリヒトに向かって、すぐさままたレイピアで止めの一撃を繰り出して行ったのだが。横転してしまうかと思われたリヒトは、今度はロウレスの右腕を踏み台にして、体勢を整えると同時に跳躍し―――――。
その動きを追ってロウレスが上を見上げると、リヒトの右脚がロウレスの顔面を直撃したのだ。
「―――――・・・・・・!?」
「一生這いつくばってろ。クズネズミ」
バリバリとロウレスのメガネが割れる音が鳴り響く中、リヒトは容赦なく踏み付けた吸血鬼を冷ややかな眼差しで見下ろしながら吐き捨てるように言った。
しかし、その直後―――――すでにヒガンとの戦闘を経て、多大な傷を負っていたリヒトの身体には、ロウレスとの闘争はやはり負担が大きすぎたようで。
ふと、身体に違和感を覚えたリヒトが「ん」と声を漏らすと同時に、どぱっと頭部から勢いよく血が噴き出してきたのだ。
―――――おいおい・・・大丈夫っスか。
頭の血管イッてんじゃん・・・と地面に座り込んだ状態で、ロウレスは茫然とリヒトを見つめる。
―――――リヒたん・・・死ぬんじゃ・・・?
チッと舌打ちを漏らしたリヒトは、視界がくらくらとしてきたようで、右手を地面に着きながら左手で頭部を押さえつつ両膝を突く。
けれど、リヒトはその後すぐにまたフラと身体を揺らしながらも立ち上がっていて。
―――――死ぬぞ!?
その姿にロウレスは唖然となってしまう。
―――――・・・なんで立つんだ。
―――――なんなんスかこいつ・・・!
どうみても瀕死の状態なのにも拘らず、変わらずに自分を睨み付けてくるリヒトの姿に、ロウレスは思わず、は・・・と引き攣った笑いを零してしまう。
「ああ・・・もういいや」
ロウレスが呟いたその言葉に「あ?」とリヒトが怪訝そうな声を漏らす。
と―――――
「オレはオレ。リヒたんはリヒたん。もうそれでいい・・・どうでもいいや」
そう言いながらロウレスは両腕を広げると、武器であるレイピアも右手から手放してしまい、カランとそのまま地面に転がしてしまったのだ。
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作者名:朱臣繭子 | 作成日時:2020年7月31日 21時