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第十四章『“Life’s but a walking shadow”』【3】 ページ18

「てめえは今、俺と戦ってんだろうが」

「・・・もう腕も上がらないだろう。ピアニスト君。オジサンはここで君を殺すつもりはないんだけどなあ。君がそこまで彼と彼女を庇う理由なんて・・・」

 左腕を右手で掴んだ体制のままではあったものの、変わらず鋭い眼差しで自分を睨み付けてきたリヒトに対し、ヒガンは右手の人差し指で髪を掻く仕草をしつつ、柔和な笑みを向ける。

 けれど、それでリヒトが引き下がる事はなく―――――

「うるせえよ。理由なら簡単だ。なぜなら俺はピアニストだからだ。聴衆がいなきゃピアニストでいられねぇだろうが」

 ヒガンに対して強い口調でそう言い放つと、ズズと足で地面にピアノの鍵盤を描き出したのだ。

「腕が上がらないことなんてピアノが弾けない理由にはならねえ」

 そしてリヒトが鍵盤の上に片足を乗せて飛び乗るとポーンと音色が響き渡り。

「・・・・・・リヒト君・・・・・・」

 耳朶に届いたピアノの音色と、揺らがぬ強い意志が宿ったその言葉に、俯いていた瑠璃も顔を上げると、呆然とした面持ちでリヒトを見遣った。

 するとリヒトはフッと微笑を浮かべ、

「何より、女神『セレネ』がいる限り、俺の心が折れることは絶対にねぇ」

 そんな宣言をすると、ニィとヒガンに向かって挑発するかのように口元を吊り上げて見せたのだ。

「・・・素晴らしい創造性。守るものがあるほうが強いタイプには見えなかったんだけどな」

 その様に一瞬、ヒガンは虚を突かれたかのように目を見開いていたのだが、

「・・・強い目だ。描きたいな。年甲斐もなく燃え上がってしまいそうだ」

 両手をすっと掲げながら愉しげな笑みを浮かべると、ヒガンの手の中にはまた炎が生み出されていて。炎が激しく渦をまいてリヒトに襲い掛かると、リヒトが地面に描いていた鍵盤が具現化し―――――ヒガン対リヒトの交戦がまた始まったのだ。



 その光景を、真昼は唯為す術なく見ている事しか出来なかった。



 ―――――・・・体が動かない。

 ―――――なんで俺は・・・リヒトさんに庇われたままただ座ってるんだ。

 ―――――切れ切れの音楽と炎の合間。

 ―――――リヒトさんが俺に言った気がした。

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作者名:朱臣繭子 | 作成日時:2020年4月25日 21時

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