肆拾‐肆 ページ6
木の門が開いて中から顔を出したのは、紛れもなく庵先輩だ。服装は昔と変わらず、黙っていれば高嶺の花の美人な所も変わらない。
───痛々しく残る傷跡を除けば
「……は?」
「出会って一声がそれってどうなのよ。アホ面晒してないでさっさと入りなさい」
「待って先輩、待って…え?」
右頬から鼻にかけて残る傷跡。俺の記憶にはない傷跡。
俺に背を向けて中へ戻ろうとする先輩の袴の裾を掴み引き止める。驚いて振り返った先輩の頬に思わず触れてしまった。
「この傷、なに?」
痛みはもうないのだろう。ただ、先輩は思いっきり顔を顰めた。俺の手を払って淡々と「怪我したのよ」とだけ言う。
そして先輩は俺の首元をじっと見て、ハイネックを指で下にクイッと下げた。
首に巻かれた包帯があらわになった。
「へっ?」
「朝、硝子から聞いたわよ。人の傷跡心配してる場合じゃないでしょ馬鹿者」
「いいから早く入りなさい」とスタスタと奥へ行ってしまう先輩を慌てて追いかける。久しぶりの母校に感傷に浸る間もなく、人目のつかない所へと連れてかれた。
ポツンと場外れな木のベンチが置かれてある。
「懐かしいですね、ここ。昔はよく来てた」
「授業をサボってね」
「あはは…」
俺のサボりスポットだったここは、相変わらず暗くて湿っていた。でも、人が来ないから心地よかった。
「んで、こんな目立たない場所で何を?イケメンな後輩を襲うつもりですか」
「頼まれたってアンタみたいな奴襲わないわ。……そうじゃないでしょ。さっきも言ったけど、硝子から聞いたわよ。また、寝れないんだって?」
「あの時よりはマシですって」
「首を自傷した馬鹿はどこの誰よ」
大きく溜息をついた庵先輩に俺は曖昧に笑った。
答える言葉が見つからない。
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チョコドーナツ(プロフ) - う……ようやく向き合えたんですね……(´;ω;`)二人がどう接し合うのかすごく気になります!楽しみにしてます! (12月27日 22時) (レス) @page12 id: 915577a7d1 (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - めちゃくちゃ感動しました...泣きました…最高です (8月10日 1時) (レス) @page12 id: 4dcc3dce6a (このIDを非表示/違反報告)
花帆 - 面白かったです…!双子の兄弟が向き合えて良かったです…!!続き気になります!! (2022年9月28日 0時) (レス) @page12 id: 8832d32b96 (このIDを非表示/違反報告)
凉月 - とても面白かったです‼できればでいいんですが後日譚や番外編が読みたいです…‼ (2022年7月11日 2時) (レス) id: e80a4daaf8 (このIDを非表示/違反報告)
防弾チョッキ - ここでか・・・ここで終わるか・・・続き読みたいです!(無理はしないで下さい) (2022年7月4日 17時) (レス) @page12 id: 16da95312d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:葉月 | 作成日時:2021年2月6日 19時