最強な弟。フツーな兄。 弐

肆拾‐陸 ページ8

昔、「君はひび割れたガラスみたいだ」と言われたことがあった。


これを言ったのはたしか大学の友人で、普段から少し人とズレた言動をするやつだった。頭は随分と良かったから、まあ多分かなり個性的な性格なだけで、良い奴だったし色んな人間から好かれてるようなやつだった。


『さすがにそう言われたのは初めてかな』
『気を悪くしたらゴメンね。悪気はないんだ。ただ、なんだろう…君を見てるとそんな感じがした』


仲は多分良かった方だ。普段から変な例えを使うやつだったから、急に言われてもそこまで驚かなかった記憶がある。


『ひび割れたガラスって？』
『これ以上自分が傷つかないように最初から相手を破片で傷つけようとする感じ？割れたガラスって触ると怪我するだろ』
『……それ褒めてないよね？』
『これのどこが褒め言葉だと思ったの？Aは変なやつだな』
『お前にだけは言われたかねーよ』



あの場はフツーにやり過ごしたと思う。「へー他人からはそう見えんのか」と少し自分の行いを反省したりして。

でも、今になっても思う。



彼の言った言葉はきっとその通りだ。




『貴方が何に悩み、何に苦しみ、何に追い詰められているのか』



俺は知ってる。知ってるからこそ、見ないふりをしてた。そこに向き合いたくないから。



昨晩の夢。俺は何を弁明をしていたのか、何に許しをこいたかったのか、誰に言い訳を重ねていたのか。


俺は知ってる。




「探しましたよ。歌姫から連絡がなかったら夜通し探すところでした」




庵先輩と別れて数時間後。陽は西に沈み、東の空に月が昇っている。


京都の夜は美しい。


川に映る月を橋から眺めながら俺は後ろから聞こえた声に答える。




「今夜は月が美しいな」

肆拾‐漆─side五条悟→←肆拾‐伍─side庵

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す