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参拾壱話 ページ33

子どもが言った奇天烈で面白い話に笑っているような感じだった。

優しそうでそうでない彼は、それはそれは可笑しそうに笑った。




「君たちさ、あの傷の鶯丸に勝てなかったんでしょ?
その結果が君たちの主の半殺しでしょ?
まあ僕が教えたんだけど」




ニコニコと微笑みながら放たれるのは、その表情には似合わない辛辣な言葉。

私は合わせる顔が無くなって俯いた。


傷を押さえる手は未だに離れていない。




「そんな“お強い相手”を斬ったのが僕だよ。君たちじゃない。
僕に刃を向けたところで、また傷だらけになるのが落ちでしょ?

ねえ、審神者の子?」




何も言えない。

…加州さんと小夜さんには悪いが、確かにその通りなのだ。


私はそんな姿をまた見たくて傷を癒したんじゃない。




「この人間の子の方がよっぽど分かってるよ。
君たちは何年この世界に居るの?

刀剣男士として顕現する前から存在しているんでしょ?

子どもみたいな駄々をこねちゃ駄目だと思うなぁ」


「…」「…」




2人が黙り込んでしまった。

…何も返さない。


…何か言いたい、けど何も言えない。
2人に顔を合わせられない。



…そこで気付いた。
とても痛かったはずの傷が、全然痛くない。

優しくない彼の手が私から離れた。




「うん、綺麗に治ったね」


『へ…?』


「こういうの、実はやっちゃいけないことらしいから、黙っててね」




さっきまで傷があったはずの3箇所を、人差し指でツンツンと突かれた。

でも傷があるように感じない…というか、痛くない。むしろこそばゆい。


驚いて優しそうな人のことを見た。が、彼は相変わらずニコニコと笑っているだけだ。




『あの、何を…』


「うーん…内緒。
君の器が大きくて良かったよ」




彼はやっぱりニコニコ笑って、しゃがんでいた身体を立たせた。

そして、さっきまで私の肩を掴んでいた手で私の頭をポンポンと撫でた。




「じゃあ僕はこれで。

ねえ審神者の女の子、また会えたら話そうか」


『えっ、あの!、』




彼が手を振ったすぐ後に凄い暴風が一瞬だけ吹いた。

周りの木々がザワザワと騒ぐ。


砂が目に入らないようにと咄嗟に瞑った目を、風が止んだのを見計らって開いた。



優しそうでそうでなかった彼の姿は、どこにも無かった。

参拾弐話_視点:小夜左文字→←参拾話



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作者名:雪だるま太郎 | 作成日時:2018年7月19日 22時

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