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参拾話 ページ32

キン!とさっきより大きめの金属音が響き渡った後、小走りでこちらに来る足音を聞いた。




「うん、よく頑張ったねみんな」




彼を纏っていた冷たい雰囲気は消え、
私に会った時と変わらない、安心できる優しい人に戻っていた。

私は加州さんの本体に手をかざしながら、後ろを向いた。




『っ!』




言葉が出なかった。

さっきよりも絶対にボロボロになって傷だらけになって、緑の刀剣男士さんは倒れていた。




「大丈夫、折れてないよ」




ギリギリで生きてる、と優しい人は笑った。

…今はその笑みがとても恐ろしく感じる。

小夜さんも警戒して、さっき治したばかりの刀に手を掛けていた。


その空気を読んだ優しい人は、やはりニッコリと笑った。




「おや、随分警戒されているね?どうしてだろう」


「危険だから」


「危険?…そうかなあ。
誰彼構わず襲いかかるよりマシじゃないかな?」




八重歯の彼がゆっくり刀に手を掛けた。

小夜さんを、そのドス暗く赤い瞳が捉える。




『やめてください』


「!」「おや」




水を差すようで悪いが、この空気は駄目だ。

耐えられない。




「…だってさ、…名前は忘れちゃったけど短刀の子。
あんまり戦ってほしくないんだって」


「…」




小夜さんは名残惜しそうに刀から手を離した。
それを見届けてから優しそうな人も刀から手を引いた。




「ところで審神者の女の子」


『はい』


「刀の傷を癒してばっかりだけど、君の傷は大丈夫なの?」




ニコニコと私の顔を覗き込むように聞いてきた優しそうな人は、私に問うた。

問いながら、緑の人に沢山弄られて広がった方の傷口がある肩を、ポンと叩いた。




『っ〜ー!!』


「おや、悲痛」


『小夜さん!!!』




視界の端で小夜さんが刀に手を掛けようとしたところを見た。

私はそれを制止しようと彼の名を呼んだ。




「っどうして」


『今のところ、それがこの方にとっての戦闘開始の合図です…ので、駄目です』



「ねえ、主」




小夜さんの口は動いてない。
声も間違いない。

今まで何も言わなかった加州さんが、少し目を離した隙に上半身だけ起こしていた。




「俺らとしてもさ、ただ主がやられてるところだけを見るのは凄く辛いわけよ。

その気持ちを止めるのってあまりにも無慈悲なんじゃない?」


『……』




…心が痛む。

必死に気持ちを押し込める為に下唇を噛んだ。視界が歪む。





「だってねえ?僕に勝てるってこと?それは」

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作者名:雪だるま太郎 | 作成日時:2018年7月19日 22時

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