弐拾漆話_視点:小夜左文字 ページ29
主が出て行ったのをしっかり確認して、鶯丸に斬りかかった。
今僕にできる全力で斬りかかったはずなのに、与えられたのは擦り傷だけだった。
「太刀相手にこの場で、打刀と短刀は酷いなあ」
「人間相手に慣れた暗闇で散々酷いことしておいてよく言えるね」
剣戟が一時的に止まった。
頃合いを見ているのだろう、刀を操る手は止まっても殺気は収まっていない。
「話は狐から聞いた、四代目の審神者に裏切られたってね…
でもそれまでの審神者は良い人達だったんでしょ？」
加州清光が説得を試みる。
僕は鶯丸を挟んで真反対に待機している。
集中力は切らさない。
「…で？」
「で、って…
良い人が居るっていうのを知ってるのに、ただ人を恨むのは間違ってるよ、って話だよ」
「…間違ってる、なあ…」
その声音は、どこか馬鹿にしているようだった。
無知な話し相手を見下すような。
『…他にも何か、あるんですか？』
できる限り相手を怒らせないように話し掛ける。
彼の物言いは正しく無知な相手へのそれ。
加州清光が言った話に対して、「そういう話になっているのか」というような対応だった。
僕の問いに彼は、加州清光の方を向いていた身体を僕の方に半分向けた。
「他にも…というか、恐らくお前達が聞いた話は半分以上間違っている」
「…は？」
「加州、お前から聞いて大体察した。
一、二、三代目まではまともだったが、四代目から卑劣な扱いを受けてこの本丸は一度崩壊したのだ
そういう話だろう？」
薄い笑みを浮かべ、彼は淡々と僕達が聞いた話の内容を口にする。
僕達は何も言わなかった。
「都合の悪いところは全て“直す”のが政府のやり方だ。
実際の話を教えてやろう。
一、二、三代目までは言霊を上手く使って俺たちを従わせていたが
四代目が霊力が未熟な者だったため、言霊を上手く使えず、ここの本丸の刀剣男士に反乱を起こさせるきっかけになってしまった
というものだ」
鶯丸は、何が可笑しいのか分からないが笑みを深くした。
目は笑っていない。
「全代の審神者が外道な奴らだった。
政府も駄目だ。
ここの刀剣男士が物を言わないのを承知で、金の力で様々なことを俺たちに強いた。
だから人間が憎い」
敵は再び刀を構えた。
眼光は僕を射抜いていた。
最初に狙ったのは、僕か。
「その命、大切にしないなら、折れてしまえ」
僕は、受ける姿勢から受け流す姿勢に変更した。
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作者名：雪だるま太郎 | 作成日時：2018年7月19日 22時
