弐拾陸話 ページ28
離らしきものから出て数十歩も歩いてなかった。
考えながら歩いていたために、すでに離は小さくなりかけていたが、それでもまだ走れば届く距離だった。
と思う。
「振り向かないで、正直に答えるんだよ」
優しい声だった。
優しく、ゆったりとした声音。
フワッと塞がれていた口が自由になる。
「君は、カセン清光と小夜トウシロウ…だったかな、
二振りとも好き？」
『…加州清光と小夜左文字です』
「ああ、そうそう。思い出したよ。
それで、どうかな？」
どうしても譲れなかった。
この人がどういう人であろうと、ここは譲れない。
名前は間違えないでほしかった。
『…ええ、好きです。
会って間もないけれど、それでも彼らは大切な方々です』
「そうかぁ…
うんうん、いいことだよね。
じゃあねえ、ツル丸のことをどう思う？」
誰。
…誰？ツル丸…？
「ん…？コギツネ丸だったかな…ホタル丸…？いや…
…えっと、君にこれだけの傷を付けた刀だよ」
…全然はっきりしない。
でも、私をメッチャ食べた刀…
加州さんが「うぐいすまる」と呼んでいた気がする。
『…理由は分かりません。
ただ、私に何か八つ当たりをしているようでした』
「うん」
『…私の傷は痛みますが、彼はそれ以上に酷い目に遭ったと言っていました』
「うん」
『…どうしてこんなことをされたのか分かりません。心当たりがありません。
でも、私が八つ当たりだ、と感じただけで、彼は私に何かされていたのかもしれません』
「うんうん」
『私は彼と話したいです。
その上で、私が彼に何かしたなら謝りたいです』
思っていることをそこまで話すと、私の首回りに回していた腕を解いてくれた。
拘束が無くなった。
「君は良い子だね」
そして、やはり背後から頭をポンポンと撫でられた。
ゆっくりゆっくり振り向いた。
もう振り向いても良いのだろう、彼は何も言わなかった。
そして私より背の高い彼と目が合った。
「うん、今初めて見たけど綺麗な目をしているね」
光で金色に輝く白い髪が、風に揺れていた。
八重歯が特徴的だった。
彼は優しそうな目をしているが、その色はどこか既視感のある瞳だった。
「自己紹介は後でするね。
僕も彼らに参戦することにするよ」
そう言って彼は、ニッコリと笑った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 3人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雪だるま太郎 | 作成日時：2018年7月19日 22時
