弐拾伍話 ページ27
「主、…立てる？」
すぐ隣で刀と刀がギリギリといい合っている間に、小夜さんが私の近くに来ていた。
その手には白のカッターシャツ……
『あっすみませんお見苦しいところを』
寝転んでいる場合じゃない。
と、上半身だけ起こした。
が。
『い"ッ…！！』
両肩と首筋がとんでもなく痛む。
それはもうとんでもなかった。
アドレナリンがどうこうではない。
あと寒い。
「…大丈夫。落ち着いて、ゆっくり立って。
肩は貸すから、加州清光がやり合ってる間に出よう」
『…ありがとうございます』
ズクズクと痛む傷を何とか抑えて、
あまり力が入らない腕で小夜さんに手伝ってもらいながら
私はゆっくり立ち上がった。
その際に、肩にカッターシャツを掛けてもらった。
「歩ける？」
『…はい、大丈夫そうです』
「分かった。
危ないから、主はここから出たら真っ直ぐ本丸に帰って」
『！？』
ゆっくりと歩く私の隣でサポートをしてくれていた小夜さんが、無慈悲にもそう言った。
信じられない、私のそういう表情を受け取ったのだろう。
小夜さんは優しい目から厳しい瞳に変わった。
「主。
加州清光も僕も、アイツより経験値が低い。
でもその代わりに、アイツは太刀だから狭い室内では僕や加州清光より力を出せない。
アイツが室内に居る今が機なんだ」
早く、でも聞きやすく彼は話した。
何かが崩れる音と金属音がする。
「僕らは刀で、主を守らなきゃならない。
貴方は人で、刀相手だと傷付く一方だ。
主がここに居たら僕らは上手く戦えない」
私は無力だ。
彼らに何をすることもできない。
ただ助けてもらっただけだ。
小夜さんが優しい言葉で厳しく現実を伝えてくれた。
私がここに居ては、ただの足手まといなのだと。
『…分かりました。
どうかご無事で、お願いします』
「うん」
小夜さんは素早い動きで私の背後へ走っていった。
唇を噛みしめる。
会って数時間。数分かもしれない。
彼らとの短い時間はとても楽しいものだ。
離れたくない。
何もできない悔しさから目の前がぼやける。
目が熱い。
外は太陽さんさん照りで、暖かかった。
金属音が聞こえる。
私に、もっと力があれば。
私の足は、嫌々に本丸へと進んだ。
そして、
誰かに背後から拘束され、口を塞がれた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 3人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雪だるま太郎 | 作成日時：2018年7月19日 22時
