弐拾壱話 ページ23
コツ、といった音も聞こえた。
え、嘘。
貫通してる、？
え、肩…骨は？
骨も貫通してる？
アドレナリンがいよいよ大量に生産されているようだ。
感覚全てが麻痺してきた。
その代わり、酸素が足りない。
「そうだな…一思いに殺すのはやめにしようか。せっかく悪くない味だったんだ…
少しずつ死んでもらうことにしよう」
『！？や、やめてください！！』
彼の顔が再び近付いてきた。
抵抗はもうできない。
彼の両手が私の両手を離さない。
首筋に生暖かい何かが付いた。
無理、無理。
駄目。
『________！！！！！』
もはや声が出ない。
声にならない。
痛みがあるわけじゃない、ただ
痛みが無いのに、確かに噛みちぎられたという感覚があるのが、ただただ気持ち悪いのだ。
さらにそれだけでは止まらず、彼はそこから私の血を吸っているようだった。
何も音の立たない、光も全く入らない暗闇で、ただ私が死に逝くのを待つだけ。
どうしてだろう。
これはどういう業なのだろうか。
私はどういう過ちを犯したのだろうか。
どうして私は痛い目に遭っているんだろう。
この人は何に八つ当たりしているんだろう。
涙が溢れる。
何故？
考えを巡らせる。
どうしてここで脳が働くのだろう。
心残りがある。
心残りだけである。
あの時あの人の手に思い切り噛み付いてでも断っておけば。
あの時茶封筒をシュレッダーにかけておけば。
こんのすけさんを怒らせなければ？
いや、あれはこんのすけさんが悪い。
私がもっと注意していれば。
加州さんや小夜さんと別れなければ。
ああ、あの2人は無事だろうか。
そうでないなら申し訳ないの一言に尽きる。
至らない私が、何か優秀な点があるというだけで選ばれてしまった。
そんな優秀な点が無ければ、こんな心配をせずに済んだだろう。
そんな優秀な点が無ければ、こんなことにはならなかったかもしれない。
いや、確実にならなかっただろう。
涙が止まらない。
嗚咽も止まない。
抵抗する力は無くなった。
あの2人には申し訳ない。
辛い思いをさせてしまうかもしれない。
出ない声で掠らせたのは、「ごめんなさい」という言葉一つ。
「は？、」
キ
ン
金属音の後に続いたのは、光。
何も無かったそこから光が漏れた。
「ッある、
…じ？」
それを割って入って来たのは、
私が知る、綺麗な赤い瞳の彼だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 3人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雪だるま太郎 | 作成日時：2018年7月19日 22時
