拾捌話 ページ20
遠目で、かつ素人目なのに、なぜかそれには近付いてはならない気がした。
…そんな気はしているのに、身体は自然に引き寄せられる。
さっきより明らかに歩みが遅くなっている。
駄目だと思って抵抗する気持ちと、そらに逆らえない自身の身体。
どうして？
何これ？
恐怖心が湧き上がる。
少しずつ近付く内に、誰かの微かな笑い声が聞こえた気がした。
恐怖心から聞こえた気のせいの声かもしれない。
そうだと思いたい。
待って、
え？待って。
引き寄せられる。
近付けば近付くほどに、引き寄せられる力が強くなる。
たすけ、
！？
声が出ない
何これ、何これ！？
乾いた息しか出てこない。
嫌な汗が流れた。
歩く以外の余計な力が入らない。
止まる為の力が。
怖い、怖い、怖い。
怖い。
あんなに遠かったのにもうあと20歩くらいの距離にある。
ゆっくりだった歩くスピードも次第に速くなっていく。
どうして、
どうして！？私はそんな、むしろここから走って逃げたい、加州さんたちのところに行きたいくらいなのに。
なんでこんなに、勝手に、
もう動かないで、お願いだから。
恐怖から涙が出てきた。
泣いてもどうにもならないのに。
それは分かってる。
分かってるけど、どうにもならない。
助けて、お願い。
どうしてこんなことになっているのだろう。
ああ、もう。
これ以上進…
ああもう。
もう。
お札がたくさん貼られてある木造の建物。
私はその戸に手をかけた。
*
／小夜左文字
嫌な予感がする。
とても嫌な予感がする。
短刀の強みは身軽な動きができること。
その強みを利用して、僕は出陣ができそうな場所を探していた。
僕は今、それを後悔している。
もっと慎重に動いていれば良かった。
そうすれば、嫌な予感がした瞬間から主のところにすぐに跳んで行けたはずだ。
加州清光は多分もう行ってる。
僕よりも主に近いところに居たし、機動は加州の方が速いと思う。
…あの審神者の女の人は、とても綺麗な人だ。
あの人が復讐を望まないような人だというのはすぐに分かった。
だから僕は聞かなかった。
貴方は復讐を望むのか、と。
…主が、僕のことを知ったら、何と言うだろう。
何でこんな気持ちが出てくるんだろう。
分からない。
僕にこんな気持ちがあったなんて知らなかった。
もっと、知りたい。
だから、この嫌な予感が気のせいであってほしい。
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作者名：雪だるま太郎 | 作成日時：2018年7月19日 22時
