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｢嫌や、｣
｢へ！？あっ、ゾム！｣
｢…だめ。｣
｢えぇ……何が？？｣
気付いたら、後ろから抱き締めていた。
こんな情けない自分を見せたくなくて、Aの肩に顔を埋めたまま、ただ｢オレの｣って言いたくて。言えなくて。でも、取られたくなくて。
｢なんや俺…邪魔みたいやな、｣
｢えっ、いやそんなことは無いけど…｣
オレが居るのに、オレの知らん奴と話してるAが気に食わない。また胸がぎゅーっとなって、もやもやして、なんだかすごく、嫌な気分やった。
ずっと背中にあった温度が、鬱陶しくてもあったかかった温度を、しばらく感じていないうちに、そのままどっかに行ってしまいそうな気がして。
思ったよりも必死に抱き寄せたその身体が、離れないように必死やった。
そしてオレより素直なしっぽが、またAの腕にしゅるしゅると巻き付く。
｢…かまえや、オレが居るやろ、ここに。｣
｢あー…はいはい、もー…ごめん、ロボロ…邪魔では無いんだけど…こっちがダメそう、｣
｢ん？あぁ、ええよ、今日は元々待ち合わせしてたんやろ？わざわざそこから引っぺがしたりせんから、｣
｢ごめんね、ありがと…ほーらぞーむ、ちょっと離れてってば、｣
｢…………、｣
｢もぉぉーー…重ね重ねごめんロボロ…また明日ね！｣
｢おー、またな！｣
ガラガラ、と扉が閉まる音。
そしてしんとした教室と、腕の中の温度。
2人きりなんて慣れてた、当たり前にあったはずなのに、なんでか久しぶりに感じる2人きりの時間が、妙に恋しくて。
後で師団室に行くって言った、今日はこいつも連れてこうとしてて、そのためにここに来たのに。
それなのに何故か、今はまだこうしていたい自分も居て、ぎゅ、と抱き締めた腕をもう少しだけ強めた。
｢…どうしたの？今日は随分と甘えたいんだね、｣
｢…別に、そんなんちゃうし。｣
｢今更ぁ？もー…でも、なんかあって待ってて、って言ったんじゃないの？｣
｢…せやけど、もうちょっとだけ。｣
｢ふは、なにそれ、変なゾム。｣
変だって言われたって、しゃーないやろ。
オレだって何が何だかわかってへんのに、それでも耳に響くいつもより近い声に、胸に燻っていたモヤモヤが少し、晴れた気がした。
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作者名：!! | 作成日時：2023年6月3日 11時
