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せめてお茶請けはマトモな物をお出ししようと、キッチンから探し出せた物は当初の予定にあったスコーンとバナナタルト──ではなく、バナナとデビスコだった。
「な、なぜ……」
悲しみに震えながら、皿に盛りつけて彼女が待つリビングに向かう。近付くに連れて魔界ラジオから流れるクラシックが聴こえてくる……はずなのだが、なんだ、この地面を揺らすようなけたたましい曲は。
リビングに着いた途端、ズンッと空間が実際に揺らいだ。その元凶は魔界ラジオから、いつかのあのけたたましく雄々しい曲が流れているではないか。Aさんを見やれば楽しいそうに聴いてるワケもなく困ったように私を見ている。普段からこういう曲を聴いてるのか、という誤解が生まれてしまう！
「わ、わー！なんでこんな曲が流れてるんですかね！？止めておきますね！」
「……あ、エーミールくんの趣味じゃないんだ」
「まさか！？私にあんな趣味ありませんよ！これお茶請けです！お口に合うといいのですが！！」
しっかり曲の趣味の否定をして、そのままの勢いでお茶請け(バナナとデビスコ)を出す。呆れた反応をされるだろうかと内心冷や汗が止まらなかったが、どうやら彼女の好きな菓子らしく「デビスコだ〜」と嬉しそうに食べていた。
そこからはトラブルはなく、予定通り本の感想会と続編の本を渡すことが出来た。そして、楽しい時間というものは早く過ぎるもので、気付けば陽が沈もうとしていた。ふと窓を見た彼女もそのことに気付いたようだ。
「そろそろ遅くなるし、私帰るね」
「そうですね。そこまで送りますよ」
「ありがと！」
Aさんの機嫌の良さそうな足取りに、彼女もこの時間が楽しめたんじゃないだろうかと思う。実際にそれを聞く勇気はないが思う分は自由だろう。
最初の理想とはあまりにもかけ離れたもてなしに私は落ち込みながらも、彼女の笑顔を守れていることに胸の奥に温かいものを感じていた。
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作者名：!! | 作成日時：2023年6月3日 11時
