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先程見た時と寸分たがわず同じ場所にある針に私は動揺を隠せません。なんてタイミングだ力尽きてしまっているんだ。早く出ねば、知らぬ内に彼女を長いこと待たせてしまっていた可能性がある。慌てて彼女の元に行こうと振り返ると、振り返る際に上げた手がヤカンに触れる。そう、先程お湯を沸かしていた熱々のヤカンにだ。
「ア"ッッヅイ！！」
のたうち回りたい衝動に駆られながら、これ以上彼女を待たせるワケにはいかないという理性によって私は彼女の待つ玄関へと足を動かす。
「お、お待たせしました！」
「こ、こんにちはエーミールくん。……手、大丈夫？」
彼女は心配そうに火傷を負った手を見る。ああ、なんと優しいのでしょう。
「ええ、まあ、少々トラブルが起きてしまっただけなので大丈夫ですよ。さあ、どうぞ立ち話もなんですから……」
「中にどうぞ」と言葉を続けようとしたが、それは言葉をならないで消える。先程触れたヤカンが床に転がり、お湯が床を濡らしていれば誰だって言葉を失うだろう。何故だ、まさかあの時の衝撃で……？ああ、Aさんがまた心配そうに私を見ているのが嫌でも分かってしまう。このままでは彼女から『片付けの出来ないだらしない悪魔』というレッテルを貼られてしまう。早急に、早急に片付けて彼女をもてなさねば！
「Aさん」
「は、はい」
「すみませんが、そこの椅子にかけてお待ちいただけますか？先程のトラブルで部屋が散らかってしまって……」
「それは大丈夫だけど、私も手伝おうか？」
「いえいえ！お客さんなんですからゆっくりしててください！すぐに済みますので！」
彼女が席に座って待ってくれている間に、私は急いで大きな水溜まりを作っている床を拭きに行く。側にあった新聞でなんとか床を拭き、彼女をもてなす為の飲み物を用意するべくまたお湯を沸かす。その間に豆か茶葉の用意を、と手を伸ばしたが、そこにあったのは空っぽのビンが虚しく置かれているだけ。どうしてこういう時に限って……！
急いで出せるものがないか冷蔵庫を確認すればカルピスがあった。それ以外飲み物が見当たらない。何も出さないよりかはマシだ。
「すみません、こんな物しかなく……」
「あ、カルピス。私好きだから嬉しい！」
「！そ、そうですか！それはよかった！」
不幸中の幸いと言えばいいのか、どうやら彼女の好きな飲み物だったようで安堵した。
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作者名：!! | 作成日時：2023年6月3日 11時
