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『…クシュッ』
小さなくしゃみが耳について、本に向けていた顔を上げる
周囲を見れば、風邪かと心配してくれる友人達に囲まれた彼女の姿が目に付いた
そして
一瞬にして表情が硬くなる、彼女の様子が見えた
｢そんでさ、前に行ってた店の予約取れちゃったわけよ〜｣
｢マジ!?最高じゃん!Aも行くでしょ?｣
『う、うん、そうだね』
｢それで?その予約できた日っていつ?｣
｢それが今日の放課後なんだよなぁ｣
『えっ』
｢は〜?急すぎだろ｣
｢じゃぁ行かねぇの?｣
｢行くに決まってんじゃん!!｣
『あ…あの…私』
｢じゃぁさ〜｣
『…』
盛り上がる友人達の声に押しつぶされて、彼女の声は消えていく
必死に悟られないように強張った笑顔を貼り付け、虚勢を張っているのが、俺にはありありと見えた
きっと彼女は逃げられない
盛り上がった空気を冷ますような行動を、言動を取る事なんてできない
何故なら彼女は、俺たちはそういう生物だから…
ならどうする？
……こうするしか、ないのだ
「あ〜っとごめんねぇ、ちょっといいかな？」
｢?｣
『!…ピクトくん』
盛り上がる輪に割って入る
それだけで何だコイツと言いたげな視線が刺さる
それらに見ないフリをして、俺は制服の裾を強く握りしめた彼女に手を伸ばした
「盛り上がってる所悪いんだけど、彼女は今日俺が先約入れさせてもらってるからさ」
『!』
「ねっ?」
驚いた顔をする彼女に視線を送れば、それだけで察してくれたのだろう先程まで暗く沈んでいた瞳に光が戻った
『そ、そうなんだ〜!私も行きたかったんだけど、ごめんねみんな』
｢そうなの?残念〜｣
｢ってかさ、2人ってどういう関係なの?…もしかして｣
意味有り気な視線を向けられる
正直全然違うんだけど俺なんかが烏滸がましいんだけど!今は…
「さぁ…どうかな」
彼女の手を取って必死のスマイルウインクを返してやれば、しっかり勘違いしてくれたのか黄色い悲鳴が上がった
「…行こ」
『う、うん』
そのどさくさに紛れて2人で教室を出る
生徒の少ない方へ少ない方へと歩を進め、誰もいなくなった所で漸く足を止めた
「…」
『…』
『｢ごめんなさい!!…?……えへへ｣』
2人同時に誤って、首を傾げて、そして同時に笑ってしまう
『ありがとうピクトくん…助けて、くれたんだよ…ね？』
「あ〜…まぁ…気付いちゃったから、ね?」
そう言えば彼女はいつもの明るい笑顔ではなく、小さな花が綻ぶような笑顔を見せた
『ほんとに、ありがとう』
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作者名：!! | 作成日時：2023年5月28日 12時
