【魔！企画】悪魔は今日も尻尾を揺らす【前編】 (ページ20)

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「…夢だと思ったんだけどな」

土下座する彼女の姿が目に焼き付いているが、普段の彼女の様子とあまりに違う
そういえばパフォーマンス用に用意した魔植物に幻覚作用があるやつがあったような気がしないでもない

…何て自分を誤魔化したりしていたのだが、まさか向こうから言ってくるとは

呼び出されたのを無視する事もできないチキンな俺は恐る恐る指定された場所へ顔を覗かせる

『…来てくれてありがとうピクトくん』

既にそこで待っていた彼女に、昨日の彼女の様子はない

『君を呼んだのは昨日の事の口止めと、私の事情を説明する為だよ』
「…事情？」
『そう
今の私と昨日の私、あまりに違うと思わない？』

そう言って彼女はパチンと指を鳴らす
次の瞬間、彼女の雰囲気が激変した

先程まで纏っていた悪魔を魅せる存在感が形を潜め、代わりに陰鬱としたオーラが全身を覆っている

『こ、これは私の家系能力のせい』

話し方まで変わってしまったAさんは話を続ける

彼女の家系能力【新しい私(ニューフェイス)】
自分の中に別の人格を作り出せる能力
Aさんの主人格は臆病な子で、対悪魔用に明るい人格を作り出したそうだ

『そ…それでそのまま全てを別人格に任せていたら…』
「その人格に惹かれた人ばかりが集まって、主人格が出て来れなくなった…」
『…そういう事』

がっくりと彼女は首を垂らす
おどおど話す彼女に、俺は実家にいるような安心感を覚え始めていた

『別人格には特に苦も無くなれるんだけど…一回戻ると日が変わるまで別人格にはなれないんだ』
「あぁだから放課後に俺を呼んだのか…あれ？でも昨日はまだ昼過ぎ…」
『う…うん…実は』

首を傾げた俺に、更に困った様子で彼女はこう続けた

『私、花粉症で』
「花粉症」
『花粉の時期はどうも魔力のバランスが悪くなっちゃって…ふとした拍子で主人格に戻ってしまう事があって…』
「はぁ」
『昨日もそんな感じで急に戻っちゃって、隠れてたらそこでピクトくんが何か始めたから人が集まってきちゃって…出られなくて…』
「…ごめんなさい」

なるほどそういう理由であそこにいたのか、と納得する
それにしても別人格を作る能力とは…便利なようでいてとんでもないデメリットを抱えた能力だ
陰キャを突然陽キャの前に出したら死んでしまうというのに…

『そ、そんなわけで、ピクトくん、黙っててくれる…よね?』

おずおずと見上げてくる彼女に、気持ちのわかる俺は否とは言えなかった
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