漆拾伍(しちじゅうご) ページ26
ひゅう、と風が吹き抜ける。
自国よりも北の地はさすがにすこし寒い。
歩き疲れた足を誤魔化すように、ブラブラと振った。
「なぁ、ティー。
おれ、ティーに殺されるん？」
心做しか子供のような声で隣に立っている人物に話しかけると、鼻で笑われると思っていたが当の本人は重々しく口を開いた。
「なんでそう思うの？」
「だってこの作戦、ティーがちゃんとやってくんなきゃ俺確実に死ぬやん。」
「どちらにせよ、ゾム、あんたがいたとバレた時点で、私も死ぬから大差ないさ。」
勿論潔く死ぬ気はないけどね、と言う彼女にはぇ〜と呟くと、またひゅるり、と足元を風が吹いた。
敵国の基地の屋上＿正しくは屋根の上で、慌ただしく出入りを繰り返す人々を眺める。
「ティーは結局、どっちの味方なん？」
「……味方、かぁ。」
職業病からか、どこか先生のような口調が崩れない彼女が珍しく言い渋る。
ちらりと顔を見ると、大人っぽく微笑んでいた。
自分は好みではないが、しかし確かに大人らしい女性が好きなやつが見たら惚れてしまうのだろうなぁ。
ひょんな事を考えていると、楽しそうに口を開いた。
「＿＿＿＿＿＿＿＿＿」
「俺が前線に出て指揮をとる。」
空いた口が塞がらないどころかアワアワと震える。
『ほ、本気ですか？！』
「あぁ。」
「……私も止めたい所なのですが、こうなったらこの人、もう意志を曲げないんですよ。」
困ったように眉を下げるエーミール。
彼はもう説得を諦めているようだが、今までにも大の総統が前線部隊を指揮したことがあったのだろうか。
『いや、ですが……！！』
「この国で1番軍の指揮能力があるのは俺だ。
というか、前線が崩れたらもう勝ち目はほぼ無いからな、俺がやる。」
『いや、えぇ……？！』
「悲しいことに、本当にこの人の指揮能力には国の誰も敵わないんですよねぇ……」
自慢げに笑うグルッペンを睨むように見つめる。
余計気を良くした彼は、だからな、と付け足した。
「Aを俺の護衛として前線に連れていきたい。」
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