その炎の熱さを知らない 2 ページ33
「わたし？」
「語学に関しては何も心配してないんだけどさ。これからのことを考えると、医学を少し学んで欲しいって思ってる」
「医学？ ……あ、そっか。そうだね。その方がいいかも」
首を傾げつつも納得したのは、きっとこの先のことを考えたからだろうか。彼の発言から一つ取って視線を少女から彼へと移す。
「これから？」
「さっきも話したけどさ、俺、ここに来る前まではいろいろと無茶ばっかしてたんだよ。それで俺の相棒兼主治医みたいなやつに怪我するたびに怒られててさ。けどあいつ、薬学がメインでちゃんと医学を学んでたわけじゃないんだ。……あー、話が逸れたな。つまり俺、しょっちゅう怪我してばっかりだったんだよ。だから」
「その手当を彼女に、と？」
「ああ」彼が頷く。その迷いのない返答に、これは、と少しだけ眉間に皺を寄せた。
「ふむ……君はそれでいいのかい？ 言い方を変えれば、新一は君を利用しようと言っているわけだが」
我々の会話に一言も口を挟まなかった少女に問いかける。簡単に頷いていたが、その意味をわかっているのかと。
「構いません。彼がいなければ私は今ごろ何も身動きがとれずに途方に暮れていたでしょうし……それに、同じ境遇の人が近くにいるのって、すごく安心しちゃうんです」
そう言ってはにかむ少女に鼻の奥がツンとする。
なんて無垢で強かな子だろうか。気丈に振る舞っていても、やはり少女だ。家族のことを思い不安になる。
それを隠そうとしているのだから、ついかわいそうだと同情する。
だが、これはどうしたものか。と考える。
同じ境遇の二人だからという考えもあるだろうが、だからとしてこの二人の関係に懸念を持つ。
彼らはきっと、依存し合うだろう。隣にいればいるほど。互いを分かち合えば分かち合うほど。
危うい、と思いながらそれをどうにかする方法など考えられない。
なぜなら、この二人はこの世界で二人きり、同じ恐怖や不安を抱えているのだ。我々には分かりもしないそれが。
だから口を挟めない。悔しいが。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 12人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：コトハ | 作者ホームページ：
作成日時：2016年10月26日 22時
