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その祝福は青い輝きに満ちていた2 ページ25

なぜ、そんなに悲しそうな顔をするのだろうか。ファンではない、そう言ったのに。
そのまま疑問を口にする。青年はきょとりと瞳をきらめかせ、可笑しそうに笑った。

「ファン、というわけではないんですが。彼女のことを惜しく思うんです。……素晴らしい女優でしたから」

訛りのない、美しいクイーンズイングリッシュで語られたその言葉は、まるで紙面を飾る女性の為だけに捧げられた鎮魂歌のようだ。
その言葉の――ああ、なんて美しい。

ウェイターがコーヒーを運んできた。
テーブルにカップが置かれる。ソーサーとテーブルがぶつかる音が立って、少女が、目を覚ました。

「――シャロン?」

透き通るヘブンリーブルーがきらめく。鈴のように細く、けれど美しい音色が桜色の唇から溢れる。

「違うよ。シャロンは亡くなったろ」

叱るような声は、けれど、どこまでも優しく柔らげで。仲がいいんだと、見ているこちらまでなんだか胸の内が暖かくなるような気がした。

そっかと少女が机の上の新聞に目を向ける。そうして悲しそうに眉を下げた。
彼女もだ。彼女も、よく知りもしない女優相手に、本気で『悲しい』なんて感情を抱いている。

「あなたも惜しいって思うの?」

少女に問えば、きょとりと目を輝かせる。
不思議そうな、ほんの少し、理解に戸惑っているような瞳。
もしかして、英語がわからないのだろうか?

「そうだなあ、さみしいと思うよ」

帰ってきた言葉は英語だった。どうやら言葉は通じるようでほっとした。

「さみしい?」
「うん。……さみしいよ。誰か、好きな人が亡くなるのは」

ああ、なんてことかしら。
コーヒーを口にして、目を閉じる。
なんてことかしら。今になって、初めてシャロンを殺してよかったと思っているだなんて!
顔に出さないようにと気をつけながら、そうと興味がない体を装った。

店内に流れる音楽が変わる。伸びやかに美しく響くアリアに、なんだか居心地の良すぎる悪さを感じて、腕時計に目を落とした。

「あら、もうこんな時間なのね。もう行かないと」

カップに残ったコーヒーを、行儀は悪いかもしれないが一気に飲み干して席を立つ。

「もしまた会えたら――」

言いかけて、口を塞いだ。
2人の目がこちらを不思議そうにのぞいている。
なんでもないと笑いかけて、今度こそ、そこから離れる。

「あなたには、もう一度会える気がします」

青年が口にしたその言葉に、もしそうなったらどれだけいいことだろうと目を細めた。

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作者名:コトハ | 作者ホームページ:   
作成日時:2016年10月26日 22時

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