二度目の初めましてを夢に見ている ページ23
「え……？」
その知らせを聞いたとき、生まれて初めて頭が真っ白になる。という現象を体験した。
信じられなかった。否、信じたくなかった。
あの青い輝きが、二度と手の届かないところへ行ってしまうなんて、考えたくもなかった。
「降谷さん……」風見が沈痛な面持ちでこちらを見ている。一度言葉をためらって、すみません降谷さんと背を向けた。
しんと部屋が静まり返る。
ずぅんと重たい何かが背中にのしかかっている。気がする。
携帯端末の連絡先の中から江戸川コナンの文字を探し、通話を開始する。一回、二回とコールの音が定期的なリズムでずっと、ずっと鳴り続ける。
もう回数を数えなくなって何分か経った頃に、自動的に通話は切れてしまった。
出てくれなかった。その事実についに目頭が熱くなってくる。
駄目だ。泣くものか。
いつか、少年と交わした約束を思い出す。
いよいよ組織の壊滅へのカウントダウンが始まりかけていた頃。
少年と安室透は、安室のバイト先である喫茶店ポアロで何気ない会話をしていた。
学校に転校届けを出したことから始まり、少年の友人である少年探偵団の子供達に泣かれて大変だったこと。
明日から工藤邸に住むことになったこと。
居候先の、まるで姉のように接してくれた人が泣きながら想い人に別れを告げていたこと。
まだ誰にも知られていないセーフハウスのこと。
そこに少年と、少年の相棒である少女を招待すること。エトセトラエトセトラ――。
そして会話がぷつんと急に途切れてしまい、言葉を探していたとき、少年がふと思い出したように安室を見上げた。
「約束しよう、安室さん」
そう言って少年は立てた小指を男の方へ向けた。
突然のことに、何の言葉も返せなかった安室に、少年はいたずらを企むような可愛らしい子供の笑みを浮かべた。
「全部終わったら、初めましてをやりにいくよ。その時に、あなたの名前を教えて。あなたの名前を呼ばせてよ」
きらきらと青い宝石が輝いている。
それはとても美しくて、手を伸ばすことさえためらってしまう。
けれど。
「ああ、もちろん。全てが終わったら、もう一度初めましてをしよう。その時には、俺も君の名前を呼んでいいかな」
けれど、君が笑ってくれるなら。
そう、思っていたのに。
ぐっと、奥歯を噛みしめる。そうでもしないと、うっかり泣いてしまいそうだった。
「初めましてを、するんじゃなかったのか」
降谷零は、その子供の名前を呼ぶことを、まだ許されてはいなかった。
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作者名：コトハ | 作者ホームページ：
作成日時：2016年10月26日 22時
