その空の下1 ページ20
初めて少女に出会ったとき、コナンは少女の青い瞳を空のようだと思った。
澄んだ青いそれは、暗闇の中でも凛ときらめいていて、まるでそこだけが初夏の真昼の空のようだった。
「コナン」
その空が薄く陰っている。今にも雨が降ってきそうだ。
コナン。少女がもう一度名前を呼んだ。手を伸ばして頬に触れると、やっと安堵したように口元を緩める。
「大丈夫、だったろ?」
うん。と小さな声で少女が返事を返した。
初めて彼女に出会ったとき、その瞳を真夏の晴天だと思った。
広く、どこまでも続く蒼穹。青く透き通った、鮮やかな輝き。
美しいそれを、コナンはどこか恐ろしく感じた。
もし、この青を手に入れてしまったら。はたして自分はこの空を手放すことができるのだろうか?――……
「コナン」
ふいに声が聞こえた。低くも高くもないそれは、自分の声によく似ていた。
それもそうだ。なんといったって、江戸川コナンという人間は『江戸川コナン』である以前に、『工藤新一』なのだから。
「新一」
コナンに声をかけた青年、工藤新一は、コナンに名前を呼ばれて肩を震わせた。
今にも泣き出してしまいそうな表情に、罪悪感が湧かないでもないが、それでも。これだけは――APTX-4869だけは。自分が飲まなければならなかったのだ。
「なんで」
新一の震える声。
その震えは、怒りからくるものだろうか、悔しさからくるものだろうか。
ああ、おかしな話だ。目の前にいるこの青年は、自分自身であるはずなのに。その自分の考えていることが分からないなんて。
「話して、くれ。全部」
「……ああ、そうだったな」
さて、どこから話そうか。
新一には『全部』を望まれたが、あいにくと全てをつまびらかに話すことはできない。
話せること全部、といってもどこまでを話せばいいやら……。
「チャイム? ……こんな時間に?」
突然、来客を告げるインターホンの音が鳴り響いた。
アンナが部屋の外へと駆け出した。
このタイミングだと、おそらくあの子だろう。
「しまった! 新一、早く玄関に!」
新一が玄関へと駆けて行ったアンナの後ろ姿を見届けて、自分の方を振り返るよりも早く、少女の叫び声が響いた。
「アンナ!」
新一が飛び出す。自分もアンナのところへ行こうとしたが、体が重くてよく動かない。
しくじった。新一に連れて行って貰えばよかったか。
重い体を動かして柔らかなソファから降りる。ふらりふらりとよろけながらも玄関へと急いだ。
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作者名:コトハ | 作者ホームページ:
作成日時:2016年10月26日 22時