第七話 ページ7
部屋の扉を開ける。机の上に両肘を立て、組んだ両手に顎を置いてる彼が椅子に座っていた。彼女を目で捉えると彼は嬉しそうに此方に微笑んだ。
「約束通り、会いに来てくれましたね。とても嬉しいですよ」
「そ、それは良かったです…」
機嫌が良いのか。心做しか、低い彼の声が高く聞こえるような気がした。貸してもらったハンカチを机の上に差し出そうとするが、咄嗟に止められた。
「それは貴女に差し上げよう。それよりも、私は別の物が欲しい」
「別の物…？」
不思議そうに首を傾げる彼女に、分かりやすく自分の首元に指を向け、軽く指で衣服を叩く。ガタンッとテーブルに両手を思い切り着いて彼女は勢い良く椅子から立ち上がった。
「ま、待ってください！ 待ってください!? フューラーさん、それはダメです!!」
「何故？」
「何故って、そんなの…！」
そんな簡単に決めていい代物では無い。一時的な契約であろうともその場で即決し良い、判断では無い。机に両手を置いたまま、彼女は顔を俯かせる。
「…私は貴方の事を守れません」
「守って貰ったとも」
「……介抱する事も、出来ません」
「あの桜の木の下で貴女は優しく、私を介抱してくれたとも」
あの時助けてくれた彼女のように彼は、優しい声で彼女の言葉に相槌を返して行きながら机に置いている両手に自分の手を重ねた。
「………あなたを、きづつけてしまいます」
小さく震える声で呟かれた言葉は、彼女心からの本心だろう。そんな心配をする必要性なんて全く無いと言うのに。本当に難儀で仕方が無い人だと思った。
「――貴女は優しい人ですよ」
俯いていた顔を上げる。穏やかな表情と優しい眼差しで彼は微笑んでいた。
「いいんですか…？ 本当に…？」
「俺は貴女が良い。いや、A嬢で無ければ行けないのだ」
重なった両手に離さぬ様に指を絡ませる。赤い瞳はただ真っ直ぐに彼女だけを見ていた。
「改めて。どうぞ。末永く、よろしくお願いしよう。我が
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 83人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：無地 | 作成日時：2023年10月31日 10時
