【d!】仮契約 (ページ3)

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第三話ページ3

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「…む」

「どうしましたか？フューラーさん」

訝しげな顔をしながら、彼は胸ポケットとズボンのポケットに何度も手を出し入れする。目当ての物が無いのか、腕を組んだ。

「…いかん。どうやら眼鏡を忘れてしまったようだ」

「フューラーさんは眼鏡を付けられるのですね」

「昼夜問わず本ばかり読んでいたせいか、視力がかなり落ちてしまいましてね」

雑談混じりに会話をしながら、二人は学校まで歩いて行く。
しばらくすると目の前に強大な門と校舎が見えた。

「無粋な質問だがAさんには番の方はいらっしゃるのかな？」

「いいえ、居られませんよ」

「…そうか」

抱擁を交わした時匂いが全くしなかった所を見るに本当にフリーなのだろう。顎に手を当てながら、彼はじっと彼女を見つめた。

「ハンカチは式が終わった後、必ず返しますので」

「難儀な人だな。気にしなくても良いと本人が言っているというのに」

そのまま自分の顔を勢い良く寄せる。至近距離に近寄られる事に、驚き目を丸くする彼女を他所に彼は話を進める。

「ならば、約束を。この後、絶対に‪俺に会いに来て欲しい。どうか、それだけは誓ってくれ。…それだけで、構わないのだ」

何処か、懇願する様な切ないその声に彼女は反射的に答えた。

「も、勿論です。絶対に、真っ先に貴方の元へ私は会いに行きます！」

迷い無く言い切るその言葉に、一瞬彼は呆気にとられた。すぐにでも嬉しそうな表情に変わった。

「…あぁ、良かった」

その言葉だけで本当に、幸せになってしまうくらいに。