第十一話 ページ11
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「落ち着いたか？」
「は、はい。迷惑を掛けて、すみません」
彼女は頭を下げて、謝罪する。涙で濡れた目元を指でゴシゴシと拭う。
「A嬢は相手との親睦を深めるのは怖いか？」
「い、いいえ。そんな事はありません。寧ろ、私と仲良くしてくれるなんて、とても嬉しい事だと思っています」
「そうか。じゃあ明日は俺とデートをしないか？」
「ふぇ…??」
突然の発言に、彼女の思考が追い付かなくなった。
「勿論。A嬢が嫌だと言うのなら諦めるさ。個人の選んだ決定に口出すつもりは無い」
今此処で彼女に誘いを断られても彼は全く気にもしない。所謂、男女の恋仲の様な事が彼女と共に出来れば良いなと、思って口にしただけなのだ。
「無理はしなくていいゾ。俺は別に気にしないからな」
消して、無理意地をするつもりは一切無い。どちらを選んでも彼女の意思を尊重するだけだ。口を啄みながら、彼の返答に頭を悩ます。気にしていないと言ってはいるがそんな事を言われると断るに断れない。
「あ、あの、フューラーさん…」
「どうした、A嬢？」
穏やかな表情と声色で、彼は彼女の選択を待っている。選ぶ選択は勿論、最初から知っている。
「わ、私が一緒で大丈夫でしょうか…？」
悩み悩んで得た答えは、遠回しな言い方になった。一緒に行きたいでも、行けないでもなく、そこに居ていいのか、という許可を得る形になってしまった。
「おぉ、流石はA嬢！ A嬢ならばきっと、そう言ってくれるのだと俺は信じていたゾ！」
演説するかの様な、高らかな声と共に彼女を自分の腕の中へと抱き上げた。
「ではスマホを出してくれ」
スマホを彼の手元に置けば、鮮やかな手口で電話番号を登録し、通話アプリに自分の名前を登録した。
「これで24時間365日A嬢に連絡を掛ける命題が出来たな」
「朝は、余り出られませんが…？」
「それは大変だな。モーニングコールが必要だ」
「ほ、ホントに大丈夫ですよ!?」
慌てて止めようとすれば、両手を上げて冗談だと楽しそうに笑った。時刻に目線を向ければ、そろそろ退室時間が迫っていた。
「では、A嬢。次は週末で」
「…はい、また週末に」
手を上げて、彼らは挨拶を交わす。短い対面の時間ではあるが二人にとっては唯意義な時間であった。
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作者名：無地 | 作成日時：2023年10月31日 10時
