第二話 ページ2
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離さぬように力強く回されていた腕が緩やかに弱まって行く。青年は首元に埋めていた顔をゆっくりと上げる。口元を赤で染めながら謝罪する。罪悪感故か視線は合わなかった。
「…すまない。貴方の事を、傷つけてしまった」
「いや、大丈夫ですよ。身体は辛くないですか？」
「……あぁ、少しッ、だが落ち着いた…」
胸の動悸は落ち着き、息苦しさもひとまず収まった。青年は血で濡れている口元を乱暴に制服の袖で拭う。
「タオルか、何かを」
「構わない。私はこれ以上貴女に迷惑を掛けられない」
視線をずらしながらも、自分が噛み付いた彼女の首元を彼は見ていた。視線に気づいて噛まれた首元に触れる。触ると生暖かい感触と、どこかヒリヒリとした痛みを感じた。
「あぁ、首の事ですか…？」
「それもあるが、一番は匂いを貴方に付けさせてしまった事だ。…本当に申し訳ない」
彼は彼女に深く頭を下げながら謝罪した。悔やんでいる所とても悪いが、彼女にとってそれは指したる問題では無かった。
「…怒らないのか？」
「そう、ですね。私は貴方の匂いがよく分からないので」
匂いが分からないという発言に彼は困惑の表情を浮かべた。
「一応、性はαではあるんですが。私はどうやら使えないαの様で、全く匂いが分からないんです」
そんな彼女に何とかしなくては行けないという気持ちが芽生えてきた。胸ポケットに閉まっていたハンカチを取り出す。抑えていた手を払い除けて、丁寧にそれを彼女の首元に巻いて行く。
「あの、これは…？」
「ハンカチは返さなくていい」
結び終えた彼女の首元に軽く手を添える。本来ならば、噛まれるのは此方な筈なのに、首に触れられる事が嬉しく感じてしまった。
「よければ、共に学校に向かわないか？ 貴女も私と同じ新入生だろう？」
「あ、ありがとうございます。あの、お名前は…」
「…グルッペン･フューラーだ。どうぞ、末永くよろしく」
差し伸べられた彼の手に、同じ様に自分の手を重ねる。
「Aです。こちらこそ、どうぞ、よろしくお願いします」
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作者名：無地 | 作成日時：2023年10月31日 10時
