【d!】仮契約 (ページ1)

今日:2 hit、昨日:96 hit、合計:5,128 hit

第一話ページ1

―

「…綺麗だなぁ」

桜は満開に花を咲かせているというのに、彼女の心の花は既に枯れていた。教員より手渡された紙に視線を向ける。

「番、探さないと行けないのかなぁ…」

手に持っている紙には、【仮契約届け】という文字が書いてあった。大きなため息を吐きながら、少女は青空を見上げた。

この世界はΩの出生率が上がる代わりに、αの出生率が低くいのだ。国は政策としてαに対して【番の仮契約申請】を行った。もう一度紙を見る。何度観ても文字が変わることはなかった。

トボトボとした歩きで道を進んでいると、荒い息遣いが聞こえてきた。声のする方に近寄ると木に身体を預けながら、一人の男性が座り込んでいた。

「――誰だッ!?」

金髪赤目という目立つ色合いをした人物は顔を赤く染めながら胸を抑えて、息を上げていた。

「あの、大丈夫ですか？誰か人をーー」

「結構だッ。っ、問題など、一つもッ、無い！」

息を上げながら苦しそうに唸っていた。心配になった彼女は彼の傍へ近寄ろうする。すると彼は目を大きく見開き、瞬く間に彼女を地面へと押し付ける。そのまま首筋に勢い良く噛み付いた。

声を上げるよりも先に首に激痛が走った。首元から落ちた血は、散った花を赤に染めていく。首に噛みつかれながら、彼女は不安定な青年を抱き締めた。

「だい…じょうぶ、だいじょ、ッ…ぶですよ。私は、あなたに、なっ…にも、しません、から…ッ」

拒絶せず、否定せず、ただ受け入れるその在り方は不思議と青年には心地好く感じた。大人しく青年は彼女の首に腕を回し、抱き締めた。