攻守交代-GameSet-【弱虫ペダル/荒北靖友】

48回戦 ページ8

ー荒北sideー



「消えたい……」
「想像以上にヤバイな……靖友の女装。似合いすぎっ」

　新開がニヤケながら、お得意のバキュンポーズでからかう。何を仕留めるつもりだァ、オイ。
　文句を言うため立ち上がろうとしたところ、クラスの女子から肩をイスへと戻し押された。

「こらー、荒北！ちゃんと座ってないとせっかくの西洋人形風メイクが口裂け女になっちゃうじゃん！」

　水色のブリブリの服着せられて、縦巻き髪のヅラを被らされて。ベタベタと顔に塗り物されて。

　なぜこんなことになったァ？！

　Aと屋上で別れたあの日。教室へ戻ると、直前のゴシップを見つけたクラスの連中がウザくて。
　四方八方から飛んでくる質問の嵐に耳を塞ぎながら適当に受け流していると、どこからともなく聞こえてきたオーダー。

「荒北！王者たるもの極上の女装で文化祭を盛り上げろ」
「おォ！めんどくせーけど、やってやんヨ！……ア」

　条件反射だった。

　福ちゃんのオーダー＝やってやんヨ
　3年かけて擦り込まれた感覚はロードも部活も全く関係ねェところまでムダな適応力を発揮させて。バカか、オレァ！
　咄嗟に否定をしようとすると
「靖友！男に二言はねぇよな？」
新開の穏やかな表情にほんの一瞬、鬼の形相を見て、無言で頷いてしまった。

「荒北は華奢いから何着ても似合うよー」
「うんうん。荒北が想像以上に可愛くて焦ったよー。新開も顔だけ見たら普通に可愛いんだけど、首から下が実にミスマッチ」
「荒北の年下彼女も惚れ直すかもねー」

　準備作業を進めながら、手よりも圧倒的に動く女子の口に苛立ちを呑み込んでいたけど。最後の一言は呑み込めなかった。

「バァカ！アイツは……カノジョじゃねーヨ！？」

　普段はクラスの女子とさえほとんど喋らねーオレが何の接点もねェ後輩から言い寄られるし、教室にお迎えに来られるしで周囲からの視線は明らかに色事眼。
　良い気はしねェ。
　だって――オレらは周りが思うような道を辿ってねーんだぞ。ブチかますか、ブチかまされるか。そんな道を歩く限り、カレシとかカノジョとか……そうゆーゴールは果てなく遠くて見えやしねェヨ。

「あ。噂をすれば……彼女、堂々と彼氏の教室の下を別の男と歩いてるよ？」

　1人の女子が窓下へ視線を落とした。

　浴衣姿の黒田と。同じく浴衣姿のA。いつもは下ろしている髪を結い、その姿はこの世のものとは思えないほど――やっぱり綺麗だった。

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