攻守交代-GameSet-【弱虫ペダル/荒北靖友】

45回戦 ページ5

ー荒北sideー



　オレはシャツのボタンは元々第二ボタンまで開けてんだヨ！ さっきはクラスの女子から危うく着せ替え人形にされるトコだったから閉めてただけだっつーのォ。教室内の異様な空気と更にコイツの手ェ引いて階段を上ってたら……変な汗かいてきて……それだけだヨ？！

　着せ替え人形の危機の次は身ぐるみ剥がされるトコだったわ。油断も隙もねぇナ。

「オメェ、文化祭準備中だろ？3年の教室に何しに来たんだヨ？」

　さっき黒田と2人で学校を出ていくのを見た。きっと文化祭の買い出しなんだろうけど。
　黒田に掴まれた手を振りほどくことなく、ダラダラと出ていくAの背中を睨み付けた。そんな自分がすっげーダサくて、腹が立って。

　思考と感情のバランスがコイツの前ではグラグラする。

「あぁ。先輩が悪戯に誘うから来た目的忘れてました」
「ウン。だから、誘ってねーって」
「そうやって下手に弄んでたら、そのうちタチの悪い女にブチかまされますよ？」

――ウン。タチの悪いオンナは既に目の前でオレをブチかまそうとしたケドネ。

　ホント、タチがワリィっつーの。

　Aの微笑みが。指先が。だんだん自分を見失いそうな催眠をかけるようだ。
　このままじゃ、いつか首を縦に振り、そのか細い腕へ身を沈めてしまいそうな――妖術使い。

「私、先輩が私以外の人にブチかまされたら生きていきません」

　何を想像してんのか、掴んだままのAの手首が震え哀しげな瞳を向けられた。

「んな心配しなくてもオレをブチかましてェなんて思ってんの……オメェだけだヨ」

　自分で言いながら、今のセリフはもしかすると……んや、もしかしなくても、恋人たちが囁き合うお決まりの安っぽい愛の言葉――“俺が愛してんのはお前だけだよ”的なセリフより、よっぽど己に正直な愛の言葉なんじゃねーかと思ったオレはどうかしてる。

　んな下らねェことが急に恥ずかしくなって、Aから手を離し、はぐらかすように
「話がねーなら、オレ教室戻るわ」
と、背中を向けた。

「待って！先輩のクラス……文化祭なにするんですか？」

　どうやら、本題を思い出したようで。

「……カフェ？らしーヨ。オメェのクラスはァ？」

　ウソは付いてねェ。コイツに“女装カフェ”なんて答えたら、色々マズイと咄嗟に察したオレはやっぱどうかしてる。

「……たぶん、餅つき大会です！先輩が来てくれたら、私頑張りますから！」
「ん。気が向いたら行くわ」

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