攻守交代-GameSet-【弱虫ペダル/荒北靖友】

76回戦 ページ36

ー荒北sideー



　プログラム通りに進んでいた卒業式。

　めんどくせーとは思いつつも、全然なんの期待もせずに校門をくぐった3年前のオレが想像してたより、3年間は色鮮やかに清く強く青春を刻んだようで。寂しいとか、悲しいとか。そんな感傷がうっすらと浮かんでいたのは、オレらしくねぇんだけど。
　そんな自分も案外悪くねェなァって。

　少しだけ緊張の面持ちで背筋を伸ばしたAの読み上げる無感情な送辞の言葉を聞きながら考えてたのによォ……

　思ってたのによォ……

「荒北先輩！！」

　突然、マイク越しのAの無感情な声が直接オレの頭の中に突き抜けるような声に変わった。

　Aの紡ぐその言葉は――もォさァ、どー考えたっておかしいだろって。わァってんのに。
　なァんで、そんな嬉しそうに。楽しそうに。綺麗に笑ってんだヨ。

　一度は逃げてたあまチャンが幸せに出来るほど、オレ一筋縄じゃいかねーヨ？
　それでも、幸せにしてくれんのかヨ。
　オレだってオメェ以外を乗せる気も、乗る気もねェし。つーか、乗るとかこんな大勢の前で言ってんじゃねーヨ。
　オレのこと叱る前に、オメェまァた生徒指導の教師に呼び出されんぞ。オレァ、もォ卒業だから一緒に呼び出されてやれねーかんナ。
オメェが居ねェ世界はきっとつまんねーとは思うヨ。でもさァ、オメェのことだ。やる気なく歩いて来んだろ。オレのトコまで、満面の笑みを浮かべて。

「ヒュウ！彼女すげーな」

　オレに周りで驚きの声が降り掛かる中、よく知った新開の声だけはっきりと聞こえた。

「……だからね、そろそろブチかまさせて下さい！」

　どーしてコイツは両極端しか投げねェんだろォなァ。へなちょこボールか豪速球ストレートしか投げられねェヤツに振り回されて。

　オメェがオレの前に現れて、たった5ヶ月だぜ？
　なのに、オレの3年分の青春、オメェのことばっかなんだけどォ。

　8割は部活だけどォ。いやァ……7割……6……
　まァ……半分は部活で。もォ半分はAかもナ。

　正直、ブチかまさせれてェってわけじゃねーけど。

　Aの満面の笑みを眺めてられるなら、一番近くでコイツの欲にそそられるその微笑みを見ながら、雑念だらけの遊興の沼に2人で沈んでいくのも悪くねェ。

　ゆっくりとAの元へ歩き、答辞を述べた。

「おォ。んじゃァ……“いただきます”はァ？」

　美しく、幻想的にAが笑った。

「……いただきますっ！」

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