攻守交代-GameSet-【弱虫ペダル/荒北靖友】

75回戦 ページ35

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　別に自分の想いを伝えるなんて、どこでも良いし、いつでも良い。そう思っていたし、今でも思ってる。
　わざわざ卒業式に出るのも面倒だった。送辞の言葉なんて任された時には、苦手な数学を克服した私へのどんな嫌がらせかと思ったよ。

　先輩が卒業してしまうことが悲しいなんて、ちっとも思わない。何が悲しいって先輩の様々な表情を私が迷路にハマり込んでいた数ヶ月の間、見そこなったことだよ。もう、先輩の苦しそうに歪む顔が見れない方が私にとっては致命的。っていうか、これから先、どんどん記憶から先輩が薄れてしまえば私が繰り返してきた脳内で先輩をぐっちゃぐちゃにする嬉戯もそのうち上手く出来なくなるんじゃないかって。そっちの方が恐いよ。

「続いて、在校生より送辞の言葉」

　形式的な卒業式は滞りなく進められていたようで、意外にも早く出番が回って来たしまった。
　微かに手が震えた。
　ステージ横に設置されたマイクまで歩く途中、膝が震えた。

　ヤバイ。私、緊張してる。
　新入生代表の挨拶より、夏に先輩に告白したときより。確実に緊張してる。

　爪先を卒業生へ向けて踵を揃えると、最前列に座る荒北先輩と目が合った。

　いつだって、この筋道は時空を越えそうで。2人を遮るものなんてない今、はっきりと伝わると良いな。

「先輩方、御卒業おめでとうございます……」

　形式的な送辞の言葉はすぐに書き上げた。先生も了承した。
　そのあとに。付け足した、愛の言葉。

「……送辞とさせて頂きますが……」

　マイクの電源をオフにした。
　先輩の元へ届け――

「荒北先輩！！」

　卒業してしまう荒北先輩がきっと、顔を歪ませる最後のチャンスだと思うんだ。恥ずかしくて、居たたまれなくなるような愛の言葉。
――私から贈る愛の言葉。

「強がって、ブチかますなんて大口叩く先輩を幸せに出来るのは私しかいません。
先輩が私以外の女の人に乗ることも、乗せることも絶対にイヤ。
愛ある加虐な言葉でたくさん叱ってあげる。
先輩にとって私の居ない世界は何の不自由もないけれど、怠惰でつまらない世界なんじゃない？
そろそろ全てを私に預けて欲しい。
先輩のことなら一滴残らず、一片残らず、隅々まで喰い尽せる自信があるもの。
だからね、そろそろブチかまさせて下さい！」

　先生たちが慌ててる。体育館中がざわめいた。そんな中、目線の先の先輩は顔を歪ませるどころが、ニヤリと笑って立ち上がった。

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