攻守交代-GameSet-【弱虫ペダル/荒北靖友】

73回戦 ページ33

ー荒北sideー



　始業式の途中、2年の列が騒然としていた。両サイドに並ぶ教師たちが訝しげに覗き、中心へ向かって生徒たちがキョロキョロとする中、人と人の隙間にほくそ笑むAの横顔を見た。

　センター試験の少し前、図書室の窓から部室棟の前で正座をしたAの前で黒田が腕組みしてほくそ笑む横顔を見た。

　動き出した――というより、逆再生しているようだった。

　ただ、その背景は確実に進んでいて。戻ることなく、次の季節へ確実に進んでいて。真冬の寒さがピークを迎えた今日この頃。

「せーんぱい。お久しぶりです」

　何かを企んでいるような微笑みを浮かべたAがようやくオレの前に自分の意思でやって来た。

「どしたァ？ブチかまされにきたのォ？」
「うーん……。その件でご報告に来ました！」
「アー……とりあえず場所変えよっかァ」

　大学、短大、専門学校……ほとんどのヤツが4月以降の進路を決め、やり残したことなんてなくなった学舎は1週間後の卒業を前に登校しているクラスメイトはごく僅か。

「いえ。すぐ済むのでここで大丈夫です」
「んや……さすがに何人かいるからァ、そーゆー話はここじゃァ……」
「実は私、卒業式で在校生代表で送辞を読むことになりまして」

　人の話聞けヨ？！ と思いながらも、Aの話はオレが期待していた話とは随分違って。期待外れのまともな話に大人しく耳を傾けた。

「ちゃんと出席して下さいね」
「ハ？卒業式なんて……めんどくせーじゃねェか」

　たぶん、絶対出ると思う。めんどくせーなんて思ってても、ぜってー出なきゃ後悔する。
　Aが満面の笑みを浮かべてるから。

「ちゃんと出席したら……ご褒美にブチかましてあげます。卒業なんてしたくなくなるほど、私ナシじゃ満足できなくなるほど、とびきりの愛をたくさん……先輩にあげるよ」

　もォさ。
　コイツ、何なのォ？

　アー。まんまとハマってんじゃねーな。まんまと掛けられてんじゃねーか。容易く出来てんなァ、オレの単純な恋愛細胞。

　再びAに掛けられた妖術は永遠に解けねェ気がした。

　卒業がタイムリミットだと思っていた試合は、もしかすると無限に続くシーソーゲームだったのかも。

　アー……追われるのもなかなか悪くねェ。喰われるのも案外悪くねェのかも。

　つーか……相手がAなら、どんな試合も最高のゲームなんじゃねェのォ？

　1週間後のニヤリと笑ったオレが頷いた。

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