70回戦 ページ30
ー黒田sideー
「バッ!危ねぇっ……」
言葉を紡ごうとして、口を開きかけると、突然大股を広げて歩こうとしたAが何もない所で躓いた。
なんでこいつ、こんなにドンくせーの? 嫌になるくらいタイミング悪すぎんだけど。
なんとも言えない心に灯がともるような雰囲気と久々に浮かべたAの淡い微笑みに喉まで出てた――好き。
その言葉を紡ぐ前に、転けそうになったAの腕を引っ張ると勢いあまって呑み込んでしまった――好きというたったの2文字。
「ごめん……」
「んや……怪我しなくて良かったわ」
言えば、何かが変わっていたと思う。良くも悪くも、Aを今より自由に飛び回れる場所へ連れ出せたと思う。
荒北さんがAに声を掛ける度、挑発的な表情を向ける度、困ったような泣き出しそうな顔をするから――
そんな顔させてんの俺だとしたら――
きちんと言わなきゃなんねぇ言葉なんだと思う。
「おい、A……」
「あ!もう家着いたから!ママも心配してるだろうし……!じゃあ来年……」
「待て」
掴んだままの腕をAが振りほどこうとしたけど力は弛めなかった。
「……逃げんなよ」
「別に……逃げてなんか……ないよ」
「嘘つけ。逃げてるっつーこと、自分が一番分かってんだろーが!」
「……ユキ。痛いよ」
弱々しく言ったAの言葉に咄嗟に力を弛めたけど、離すことは出来なかった。
「俺からも荒北さんからも逃げてんじゃねぇよ。それってさ、結局自分から逃げてるってことに気付いて辛くなんぞ」
「……もう、とっくに……辛くなってるよ、バカ」
Aの泣き顔は随分と見てなかった。ガキの頃みてぇにビービー泣く姿しか見たことなかったのに。
この日、Aがとても綺麗に泣いた。
声を漏らさず、ほろほろと涙だけが零れるその表情は胸の奥が苦しくなるのに、見惚れてしまうほど――本当に綺麗だった。
「だったら、ちゃんと聞け」
その綺麗な姿をずっと見ていたかったけど……苦しくて涙を流すAに見惚れる俺はやっぱどうかと思うわけで。
一際、大きな雫を溢したあと水面の揺れる瞳が重なった。
「A……好きだ」
いつかAが言った。“好き”なんてのは無計画な愛の言葉だって。
その通りだと思うよ。
“好き”だからどうしたいのか、どう在りたいのか、もっと明確に――
「だから……もう泣くな。お前が一番良いと思う所へ飛んで行け」
Aの泣き顔はすっと消えた。
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eye(プロフ) - 色々色の助さん» 最後までお付き合い頂き、ありがとうございます!!勿体ないお言葉ありがとうございます。慣れない書き方に苦戦しましたが、そう受け取って頂けて嬉しいです(^^)これからも色んなお話に挑戦していきたいと思ってます!応援よろしくお願い致します! (2016年2月11日 0時) (レス) id: ec48e3633d (このIDを非表示/違反報告)
eye(プロフ) - ミリアさん» 最後までお付き合い頂き、ありがとうございます!!中途半端な三つ巴になってしまいましたが、お楽しみ頂けましたか?こちらこそ、いつも応援ありがとうございます(^^)今後もゆっくりですが、色んなお話に挑戦しようと思いますので応援よろしくお願い致します! (2016年2月11日 0時) (レス) id: ec48e3633d (このIDを非表示/違反報告)
eye(プロフ) - 桜さん» コメントありがとうございます。攻められる荒北さん、お楽しみ頂けたようで嬉しいです。他作品のご愛読感謝致します!これからも応援よろしくお願い致します(^^)最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!! (2016年2月11日 0時) (レス) id: ec48e3633d (このIDを非表示/違反報告)
色々色の助(プロフ) - 完結お疲れ様でした。ここでは字下げや文を意識したような作品はなかなか見受けられませんがこれは物語としての表現などとても纏まり良く大好きでした!!受け身の荒北も楽しかったです。eyeさんの物語の着眼点にはいつも驚かされますwこれからも応援してます(*^^)v (2016年2月10日 22時) (レス) id: 505784ee23 (このIDを非表示/違反報告)
ミリア(プロフ) - 完結お疲れさまでした(*^^*)攻める夢主vs攻められたくない荒北に攻める黒田が加わって面白かったですwwいつも楽しいお話をありがとうございます!これからもeyeさんの作品楽しみにしてます。 (2016年2月10日 22時) (レス) id: 152cfe1d9d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:eye | 作成日時:2016年1月26日 21時