64回戦 ページ24
ー荒北sideー
また1つ、高校生活“最後”が増えた。
別に生きてりゃ、ロードなんていつだって乗れるのに、箱学のジャージ着て走る“最後”の道となりゃァ、中途半端に走るのは――オレがオレを許せなくて。
ひどく弛んでいたネジを片っ端から締め上げるような1週間はあっという間すぎて寂しいとか、卒業とか……そうゆー感傷に浸る暇なんてなかったんだと思う。そのおかげか亀裂にビビってた黒田との気マズさなんて感じることはなかった。
「んじゃァ、オレ上がるわァ」
「お疲れ様です!明日は宜しくお願いします!」
すっかり暗くなるまで部室に居座り、泉田と黒田から明日の話をしたそうな雰囲気を感じて。
掛けた声に返事をしたのは泉田だけだった。
隣の黒田は黙ったまま、床を朧気に見つめていて。
少し前ならそのやる気のねェ頭をブッ叩いてたと思う。“しっかりしろヨ、バァカ”っつってたと思う。
でも、それが出来なかった。
なんとなく、小さな後悔が押し寄せて、やり場のない苦味をベプシで流し込み、仰いだ目線を振り下ろすと、小さな影が中庭で揺れていた。部室棟から寮までの近道の中庭を突っ切って行こうと思ったが――
そのユラユラと揺れる影の正体は嗅覚よりも先に視覚が突き止めた。
踵を返すか、このまま中庭を突っ切るか、隠れてしまおうか。
やる気なく、ダラダラと。ポケットに手を突っ込んだまま、細長い足には不釣り合いの狭い歩幅。
んな歩き方すんのは――Aしか居ねェヨ。
乾いた冬空の月明かりは妙に明るくて。未だに解けぬ妖術の記憶は頭で考えるよりも先に、ユラユラ揺らめくAの元へオレを向かわせた。
近付くにつれて濃くなるAのニオイ。前とは……少し違う。
異色なニオイは相変わらずだけど、敏感に鼻が反応していた“敵”のニオイが全くと言って良いほど希薄化していて。
不安になんじゃねーか。
散々ブチかましたいと連呼しといて、今更――
「試合放棄すんじゃねェヨ」
乾いた空気は気持ちが良く声が通る。
Aを背から照らす月夜のせいで、表情までは分かんねェけど、シルエットははっきり見えた。
一瞬、肩を上げたAはゆっくりと爪先を揃え
「荒北……先輩……」
懐かしい声を空気へ乗せた。
きっと、A側からはオレの表情が見えてんだろォけど。んなこたァ、わァってっけどォ……
「よォ……久しぶりィ」
緩んでいく表情筋を止める余裕なんてねェヨ。
99人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
eye(プロフ) - 色々色の助さん» 最後までお付き合い頂き、ありがとうございます!!勿体ないお言葉ありがとうございます。慣れない書き方に苦戦しましたが、そう受け取って頂けて嬉しいです(^^)これからも色んなお話に挑戦していきたいと思ってます!応援よろしくお願い致します! (2016年2月11日 0時) (レス) id: ec48e3633d (このIDを非表示/違反報告)
eye(プロフ) - ミリアさん» 最後までお付き合い頂き、ありがとうございます!!中途半端な三つ巴になってしまいましたが、お楽しみ頂けましたか?こちらこそ、いつも応援ありがとうございます(^^)今後もゆっくりですが、色んなお話に挑戦しようと思いますので応援よろしくお願い致します! (2016年2月11日 0時) (レス) id: ec48e3633d (このIDを非表示/違反報告)
eye(プロフ) - 桜さん» コメントありがとうございます。攻められる荒北さん、お楽しみ頂けたようで嬉しいです。他作品のご愛読感謝致します!これからも応援よろしくお願い致します(^^)最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!! (2016年2月11日 0時) (レス) id: ec48e3633d (このIDを非表示/違反報告)
色々色の助(プロフ) - 完結お疲れ様でした。ここでは字下げや文を意識したような作品はなかなか見受けられませんがこれは物語としての表現などとても纏まり良く大好きでした!!受け身の荒北も楽しかったです。eyeさんの物語の着眼点にはいつも驚かされますwこれからも応援してます(*^^)v (2016年2月10日 22時) (レス) id: 505784ee23 (このIDを非表示/違反報告)
ミリア(プロフ) - 完結お疲れさまでした(*^^*)攻める夢主vs攻められたくない荒北に攻める黒田が加わって面白かったですwwいつも楽しいお話をありがとうございます!これからもeyeさんの作品楽しみにしてます。 (2016年2月10日 22時) (レス) id: 152cfe1d9d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:eye | 作成日時:2016年1月26日 21時